続・三匹が行く
チヒロはそんなチーを安心させるように頭をぽんぽんと叩いてやった。
「大丈夫だよ、チー」
……事の起こりは、とある町で一人の男に声をかけられた事だった。
「お。兄ちゃん、いいもん持ってるな」
「ん?」
この町はあくまで通過点のつもりだったので一夜の宿を探して町の大通りを歩いていた三人は、そう声をかけられて足を止めた。
彼らに声をかけたのは、大通りの片隅で敷物を敷いて商いをしている薄暗く陰気な感じの男である。
「それだよ、それ。れぷれうさぎじゃねえか」
男の前に並べられている品は見たことも無いような商品ばかりだった。
何をどう使うのかチヒロには全く分からなかった。こういうものにいくらかは詳しいイジューインが眉を顰めていたので、相当うさんくさいものや怪しいものばかりなのだということは分かった。
センリは品にも男にも何の興味も抱かず、つまらなそうに周りを見まわしていた。
そんな三人三様の様子にも全く構わず、男はただチヒロにだけ話しかけてきた。
「れぷれうさぎっていやあ、長寿の妙薬になるって有名なんだぜ。ま、ちょっと手をかけないと薬にならないんだがな。どうだ、そいつこれくらいで俺に譲らないか」
男は指を五本ほど立てて見せてきた。
それが金貨なのか銀貨なのか判断はつかなかったが、例えいくら出されようとチヒロはチーを譲る気はなかった。
「やだね」
吐き捨てるようにそう答え、チヒロはすたすたとその場を歩きさった。
……それが、つい先日の事である。
「んじゃ、ま。力の限りやってみるとすっか。ひのふの……十人かぁ。ちょーっと辛いかな」
れぷれうさぎが相当欲しかったのか、それとも無下に断られた腹いせにか、男は仲間を引き連れ人気の無い森の中でチヒロたちに襲いかかってきた。
足場の悪い森の中では戦いづらいということもあって、とりあえずは逃げてみたものの今度は崖っぷちに追い込まれてしまったのである。
男はチヒロ達が逃げたことで調子付いたのか「もう逃げられないぜ」だの「おとなしくそいつを渡せば命だけは助けてやる」だのお決まりの台詞を吐いている。
しかし、そんな男の台詞を全く無視……いや、耳に入れすらせずチヒロはのほほんとセンリに言う。
「ま、何とかなるんじゃないか?」
見た感じ、大半が町のごろつきだろう。ひょっとしたらはした金で雇われたものかもしれない。