続・三匹が行く
「忘れないで、チヒロ。例え血がつながっていなくても、僕は君のおにいちゃんだからね」
「…………」
「チヒロ?」
黙ってしまったチヒロに対してイジューインは優しく呼びかける。
その一言には色々な思いが含まれているのが感じられた。
それに対する少々の戸惑い。そして……
「うん」
チヒロは笑顔で頷く事でその全てを肯定した。
「いやー、良かった良かった。なーんかチヒロ一人だと危なっかしくってさ。ほら、いくら『大人』な俺がついてても、やっぱりお子様には『保護者』が必要だよな」
「お子様とは何だよ!」
「お子様をお子様といって何が悪いんだよ!」
「俺はお子様じゃない!」
「良く言うぜ。大人ぶってイジューインをつっぱねたくせに、いざ旅に出るとなったら不安になって怖くて俺に同伴を頼んできたくせに!」
「…………」
全て集約したセンリの言葉に、思わずチヒロは返す言葉を失う。
「そういや、イジューイン。宮廷魔道士の修行の方はどうしてきたんだ? まさか、放り出してきた……なんてことは……」
自分で言っているうちにその可能性が最も高い事に気がついて、センリは段々と言葉が小さくなった。そんなセンリに対してイジューインはにっこりと笑って答える。
「お休みをもらったの」
「休み?」
「うん、三年間のお休み」
「……取れるもんなのか、それって……」
「お師匠様泣いてたけどねー。先に言質取ったから大丈夫♪」
「…………」
「…………」
悪びれることなくいつもどおりののほほん笑顔でそう言ったイジューインに、センリとチヒロはただ笑う事しか出来なかった……
「……なあ、これってさあ、ひょっとしてピンチってやつ?」
「ひょっとしなくてもそうだろ」
前には大勢の敵、背後は崖。
そんな絶体絶命とも言えるような状況なのだが、チヒロとセンリは大して焦った様子も無く淡々と会話を繰り広げていた。
「どうしよっか、センリー」
「そうだなー。一番手っ取り早いのは奴らの要求を飲む事だろうけど、そんな気は……」
「全っ然ないに決まってんじゃん」
「だよなー」
旅に出て早二年半。
いい感じにトラブルに慣れてしまっている二人がそこにいた。
「ちー……」
チヒロの肩の上では、今回のトラブルの原因であるれぷれうさぎのチーが不安げに鳴いている。