続・三匹が行く
彼の顔を直視できず、チヒロは思わず彼から視線を逸らした。そんなチヒロをじっと見つめた後、イジューインはため息混じりに彼の名を呼んだ。
「チヒロ」
それでもチヒロはそっちを見ようとはしない。視線を逸らしたまま、じっと立っている。
イジューインはそんなチヒロに歩み寄り、彼の顔を両手で挟み、ぐいっと無理矢理自分の方を向かせた。
「そんなに『あの事』がショックだったの?」
「…………」
「あの事?」
事情を知らないから傍観を決め込んでいたセンリだったが、その言葉に思わず口を挟んでいた。
そんなセンリの問い掛けに、イジューインは躊躇いなく返事を返した。
「僕とチヒロは血がつながってないんだよ」
その言葉にチヒロは哀しげな色を湛えた瞳でイジューインのことを見た。
嘘だと言って欲しい。
そんな思いのこもった視線だったが、イジューインが言葉を覆すような事はなかった。
そしてセンリは……
「ふーん」
ただあっさりと頷く事でそれを受け入れた。
「驚かないのかよ!?」
逆にチヒロの方が驚いてしまった。
自分は相当悩んでやっと受け入れて、でもまだ実は嘘だったと言ってもらいたいと思っているほどなのに……
「だって俺、お前らが兄弟だって聞いたときから似てないよなーって思ってたし、今更だよなー」
「…………」
「いいんじゃないか。お前ら、そこらの血のつながってる兄弟よりずっと兄弟らしいし」
あっさりと言われたセンリの言葉には、しかし何故かすごい重みが感じられた。
「ひょっとしてお前さあ、実は兄弟じゃないって分かったからイジューインを旅に誘うの躊躇ったとか?」
しかもさらりと図星をつかれてしまい、チヒロは黙りこくる。
しかしいつまでもそのままでもいられず、やがて素直にこくりと頷いた。
「……バッカみてー」
呆れた様子でそう言われて、しかし言い返したくても言い返す言葉が見つからず、チヒロはものすごく悔しげな様子でセンリを睨み付けた。
そんなチヒロの頭を優しく叩く手があった。
「……イジューイン……」
「色々悩んで考えて、チヒロなりに出した結論だったんだよね。でも、出来たら自分の中でだけで完結しちゃわないで、僕の意見も聞いて欲しかったな」
自分のしたことを肯定されて、その上で優しく諭されては頷くしかない。