三匹が行く
目の前の『仲間』は自分の素性を知らない。
彼にとっての自分は、出会ったときからずっと「ただの少年」だった。
(……話しておかないとな……)
「なあ、チヒロ……」
本当の事を知ったら彼は一体どんな顔をするだろうか?
自分に対する態度が変わってしまうだろうか?
(……やっぱ、今まで通りではいてもらえないよな……)
そんなセンリの心境に気づかず、眠る支度をしていたチヒロは振り向いて返事を返してくる。
「ん。何だよ、センリ?」
『はい。何ですか、センリさま?』
(うっわー、こえー)
つい考えてしまった丁寧な口調のチヒロに寒気を感じ、センリは慌てて首を振ってその想像を打ち消した。
「どうかしたのか?」
「い、いや……何でもない」
「変な奴」
そう言ってチヒロは自分のベッドに横になり、まもなく安らかな寝息が聞こえてきた。
(……やなこと考えちまったなー)
怖いのも本当だが、それ以上にチヒロにそんな口調で話しかけられるのが嫌だった。
(やっぱ話すの止めた。このままでいい!)
このままずっと彼らには自分は「ただの少年」でいよう。
ただ、一緒に旅をしたセンリという少年がいた。それだけでいい。
それだけが、彼らの心に残っていてくれればいい。
(うん、それだけでいいや……)
彼らの故郷スイラン王国まで、あと一日ほどの道のりだった……
「あれ?」
気がついたとき二人の姿はなかった。周りを見まわしたが見えるのはこんもりと茂った木々ばかりである。
(……はぐれた?)
そうセンリが認識するまでには少しの時間が必要だった。
(ちょっとぼーっとしてたからな……)
彼らとの別れのときが近づいているからかもしれない。
自分の失態に舌打ちし、センリはその場で少し考える。
今いるのはスイランに程近い森の中だ。もう少し歩けば森を抜け王国への街道に出る。そうすれば見えてくるはずだ。自分の家であるスイラン王宮が……
センリは大きくため息をつくと、一歩目を踏み出した。
はぐれた者と合流する一番の手段は、目指す場所へ向かう事だ。今までもそうして合流してきたし、今回もそうするため彼らも向かっているはずだ。
だから行かなければならなかった。たとえ自分がそこへ行きたくないと思っていても……