三匹が行く
服と予備のマント。ランプと火打石と油。その他の旅に必要な細々したもの。どれも大きな物ではないが、やはり量があるので袋は一杯になった。
全て詰め終わると、センリは袋を背負って立ちあがった。
「よし、終わった!」
「じゃあ、行こうか」
「うん」
和やかな旅の日々。
自由で楽しい時間。
ずっと続けばいいと思ってた。
いつまでもこのままでいたいと思ってた。
でも、何事にも終わりはある……
「……なあ、チヒロ」
「ん?」
「本当に、戻るのか?」
十五のときに旅に出ないかと誘われて、それからもう三年。月日が流れるのは早いものだと実感しながら、センリはチヒロにそう問いかけた。
「ああ」
ハッキリと答えたチヒロに、センリは珍しく淋しげな哀しげな複雑な表情を見せる。
「……もう少し、このまま旅を続けないか?」
一度決めた事を簡単に変えるような性格ではないと分かっていても、センリはそう問わずにはいられなかった。
それは彼の願いの現われでもあったのだ。
「とにかく一度戻ろうぜ」
しかし、チヒロの答えはセンリが予想していた通りのものであった。
「お前だっていきなり飛び出してきたんだ。家族とか心配してるって」
「……心配?」
「そ」
無邪気に頷くチヒロに見えないように顔を少し背けて、センリは苦い笑いを浮かべた。
(誰も俺の心配なんかしてないさ。全く騒がれてないのがいい証拠だぜ。兄貴たちなんかはむしろ俺がいなくなって喜んでるだろうしな)
何処か遠くを見つめながらセンリはそんな事を思う。
「イジューインも仕事を休むのは三年が限界なんだってさ。だから、とにかく一度戻ろうぜ。それでそれからまた考えよう」
センリが感傷的になってると思ったのだろう。チヒロはいつになく優しい言葉をかけてきた。
「……ああ、そうだな」
感傷的になっていたのは確かだった。
(……ここで戻ったら、もう二度と旅になんて出れないんだろうな……)
ただそれは、故郷や家族に対する感傷ではなく、この先の自分のがんじがらめの人生に関する感傷だったが……
(見つかったとたんに捕まるだろうなー。じじいどもはぎゃんぎゃんと説教するだろうし。あーあ、何で俺あんな家に生まれたんだろうな)
ため息を一つ。
(……家っていやあ、まだ俺言ってないんだっけ……)