三匹が行く
放られたことに怒ったのか、それとも遊んでもらえなくなったのが哀しいのか、よくわからない声で鳴くチーを見ないふりをしてセンリはふわーっと大きなあくびをする。
「俺、もう少し寝るわ」
そうイジューインに言ってセンリは隣の部屋へ戻ろうとした。そんな彼にイジューインは、いつものにこやかな笑顔で声をかける。
「昼には出発するから、それまでには起きておいでよね」
「誰がそんなに寝るかよ、チヒロじゃあるまいし」
悪態でそう返して、センリはすたすたと部屋へ戻っていった……
そして、その六時間後……
「まーだ準備出来てないのかよ、とろいなー」
「るせー!」
明らかにからかっている様子のチヒロに対して、センリは目一杯不機嫌で返事を返す。
「大体、俺は朝早くからたたき起こされたんだぞ、こいつに!!」
チヒロの肩に乗っているチーをむんずと掴んで、センリは彼に食って掛かった。
「俺だってお前にたたき起こされたんだからあいこだろ」
「お前は半分眠ってただろ!!」
「でも俺、もう準備出来てるしー」
「ぐ……」
センリは思わず答えに詰まった。それが事実である故にこれ以上の反論が出来なかったのだ。
勝ち誇るチヒロの顔を睨み付けながらも、それ以上無駄口を叩かずもくもくと準備の手を進める。
「そろそろ用意できたー?」
ひょっこりとイジューインがドアから顔を覗かせる。
「宿の支払い済ませてきたよ。それと、これ女将さんからもらっちゃった」
「何それ?」
イジューインが手にした包みに、チヒロが目を輝かせながら問い掛ける。
「お弁当だって」
「やっりー、ここの飯美味いんだよな!」
実に嬉しそうに言った千尋に、準備の手を思わず止めてセンリも同意する。
「ああ、本当に美味かったよな」
「そのせいで予定より長く逗留する事になっちゃったんだけどね」
苦笑まじりにイジューインが言う。確かに彼らはここの宿の食事につられて予定より一週間以上も長く逗留してしまったのだ。
「で、今度はどっちに行くんだっけ?」
「西に行こうって、昨日決めたでしょ?」
「あ、そっか。西に広がってる原生林を見に行くんだっけ」
「そうそう。すごい雄大みたいだよ」
「楽しみだよなー」
和やかに話し合うチヒロとイジューインを横目に、センリはこれ以上何かを言われないうちにと、さっさと背負い袋に荷物を詰める。