三匹が行く
やがて何とか我に返ることが出来たセンリは、自分の胸にでんっと乗っかっている『それ』をむんずと引っ掴むと、ベッドから跳ね起きダッシュで隣の部屋へと駆け込んだ。
「チヒローッ!!」
「……んー……」
低血圧なのか、あまり目覚めのよくないチヒロは、部屋に駆け込んできたセンリの凄い剣幕をものともせず……いや、分かっていないだけなのだろうか……のほほんと朝の挨拶をする。
「あ、おはよー、センリ……」
「おはようじゃない!!」
「なんだよ? 朝は『おはよう』だろ?」
「そういう意味じゃない!!」
まだ眠いのか、目を擦りながらセンリの方を見たチヒロの目の前に『それ』は突き出された。
「これは何だ!?」
センリが突き出したそれは、淡いピンクの球体だった。
少し長めの耳が二つと、細く長い尻尾がその球体からは生えていた。
小さな手と足が飾りのようについた『それ』は、つぶらな瞳でチヒロのことを見ていた。
「……何って……チーだろ?」
チヒロは至極あっさりとそう答えた。
そのチヒロの言葉に反応して『それ』は『ちーっ』という鳴き声で返事をした。
『ちーっ』と鳴くから『チー』という名前をつけたのは、他でもないチヒロである。
「チーだってことくらいは知ってる! 問題は、何で俺が目を覚まして最初にこいつのドアップを見なきゃならなかったかってことだ!!」
「あれ? ……っかしーな、寝る前までは確かにここにいたのにー……」
チヒロは自分の枕の脇をぽんぽんと叩きながらそう呟いた。
「駄目だろ、チー。勝手にどっか行っちゃ」
「……ちー」
「そんなにセンリのこと気に入ったのか?」
「ちーっ♪」
「そっかー。じゃあしょうがないよなー」
「それで納得するな! 俺はこいつのアップを目の当たりにしてしばらく固まったんだからな!」
「えー、こんなに可愛いのにー」
確かにチーは可愛い。可愛い……が!
点に近いほどつぶら(?)な瞳。ばってんのような口。無表情なその表情。
それを起き抜けにドアップで見て、凍りつかない人間の方が珍しいのではないだろうか?
「お前のもんなんだから、責任持って面倒みろよな!!」
「んー……」
センリからチーを受け取りながら曖昧な返事を返したチヒロは、チーを抱いたままぽてっと布団に倒れ込んだ。
「チヒロ?」