三匹が行く
しかし、自分の手から剣が失われていたのは紛れもない事実で……
「踏み込みが甘いんだよ。あれじゃあ、避けられたらそこで終わりだぜ」
呆然とする自分に、彼は声をかけてくる。
少し遠くから聞こえたその声に反応して彼の方を見ると、地面に突き刺さった剣を抜いているところだった。
「筋はいい方だと思うけどな」
そう言いながら彼は自分に剣を差し出してきた。
渡されても尚、センリは信じる事が出来なかった。
だからそれを無言で受け取るのが精一杯だった。
「…………」
ショックだった。
今まで同年代の少年に負けた事は無かったから。いや、同年代だけではない。その辺にいる剣士にも簡単に負けないだけの自信があったから。
「でも楽しかった。またやろうぜ」
おそらく本心からの言葉なのだろう。彼はにこやかに笑っていた。
そんな彼をキッと睨み付け、センリは踵を返して走り去る。
駆け去るセンリの耳に、後ろから二人ののほほんとした会話が聞こえた。
「で、言い争いの原因は何だったの、チヒロ?」
「えっとー……あれ、何だっけ?」
よほど文句を言ってやろうかと立ち止まりかけたセンリだったが、やぶへびになりそうな気もしたので今回はあえて無視した。
(見てろよ。次は絶対に油断しないからな!)
負けたのが油断のせいだったのはさておき……
(次は絶対ぜーったいに負かしてやる!!)
そんな思いを胸に抱きながらセンリは走り去っていった。
この出会いが、この先の長い長い付き合いの始まりになろうとは、この時誰も思っていなかった……
……それから、四年……
『……ちーっ……』
「……?」
目覚め間際のまどろみの中で、センリは何か音を聞いたような気がした。
遠くのような近くのような、そんな感じの声。
『ちーっ……』
「ん……」
その声は、センリの覚醒を促した。
朝の日差しが顔に当たっているのを感じながら、センリはゆっくりと瞳を開く。
「ちーっ」
『それ』は、センリの瞳に真っ先に映った。
そのドアップを目の当たりにしてしまい、思わずセンリはそのままの状態で固まった。
「…………」
ゆうに五分はそのままでいただろうか。