三匹が行く
チヒロとイジューインという名らしい二人はどうやら知り合いのようだった。
二人の会話は内容的にはかなり寒い話だったのだが、自然と無視される形になった事に怒りを観じたセンリにとってはそんな事どうでもよかった。
「待て! 人を無視して話を進めるな!!」
「別に無視したつもりはないんだけど……」
「お前が話に入ってこなかっただけじゃないか」
飄々とそんな事を言われ、センリの堪忍袋の尾がぷつりと切れる。
「このまま帰れると思うなよ!」
思わず悪役風な言葉と共に腰に刺していた細身の剣を抜いた。
「あーあ、短気な子だねえ」
「イジューイン、イジューイン。あっちが先に抜いたんだから、これ正当防衛だよな♪」
「……まあ、ほどほどにね」
「よっしゃあ!!」
うきうきした様子で、チヒロと呼ばれた少年の方が剣を抜いた。
「勝負!」
そう言いながら剣を構えた彼の周りの空気が、瞬間的に変わったのを感じてセンリは思わず息を呑んだ。
(こいつ、さっきまであれだけおちゃらけた奴だったのに……剣を抜いたら別人みたいになりやがった)
彼の目は真っ直ぐにセンリのことを見ていた。
その瞳は戦う事を楽しんでいるのかきらきらと輝いている。しかし、同時にかなり真剣でもあった。
(……隙がない)
彼の構えを見て、センリは自然とそう思った。
型にはまらぬ自由な構え。
それはセンリが今まで習ったものとは一線を画していて、隙を見出す事が出来なかった。
「…………」
冷たい汗がセンリの頬を流れ落ちる。
しばらくの間、どちらも動かなかった。
周りにいつの間にか集まった野次馬たちは、傍観者面で勝負を見守っている。
「…………」
これ以上の沈黙には耐えきれなかった。
剣の柄を握りなおし、正面からもう一度彼を睨み付ける。
仕掛けて来ると分かったのだろう。彼がうっすらと笑みを浮かべるのが分かった。
「でりゃあ!」
「甘い!!」
掛け声と共に向かってきたセンリを紙一重の所で交わし、その位置を利用して彼は自分の剣でセンリの剣の根元を下から思い切り叩いた。
キンッと言う金属同士のぶつかり合う音。
そして一振りの剣が宙に舞った。
「勝負あり!」
高らかにそう告げたのは、目の前の彼の連れの少年。
「…………」
にわかには信じられなかった。