三匹が行く
そんな思いを持って反論したセンリだったが、それは目の前の彼のあっさりとした一言によって封じられた。
「俺にじゃない。この子にだ」
そう言って彼が指し示したのは、未だ尻餅をついたまま呆然と二人を見上げている子供だった。
「転んだ子供に助けも差し伸べてやらないで、しかもそれが自分のせいだってのに謝らない奴は最低だぜ」
にーっこりとそれはそれは憎たらしいほどの笑顔で、彼はセンリを諭してきた。
しかし、同年代の、しかもいきなり人を殴るようなガキに諭されて「ああ、そうだな。俺が悪かったよ」と言えるほどセンリは大人ではなかった。例え彼の言葉が正論だと頭の何処かで納得していても。
「確かにその通りだとしても、だ。それで何でお前なんかに諭されなきゃならないんだ!」
何しろ血気盛んな年頃である。ついつい挑発的な口調になってしまう。
一応彼の言った事を認めて言っている辺りは偉いのだが……
そんな態度のセンリに対して、彼も黙ってはいなかった。
「お前よりましだろ。俺、子供を泣かせたまま立ち去るような最低人間じゃないからな」
「初対面の人間をいきなり殴るような奴が俺よりましだって言うのかよ!?」
「それは自業自得だろ」
「なんだと!」
思わず彼に殴りかかろうとしたセンリだったが、
「あーあ、またやってるの、チヒロー」
その、みょうにのほほんとした声に気勢を削がれた。
振りかえると、そこには一人のひょろっとした少年が立っていた。
こちらは年上……十五歳くらいだろうか? 顔にはにこやかな笑みを湛え、能天気に笑っている。それは、どこか掴み所の無さを感じさせる笑顔だった。
「だってイジューイン、こいつがさー……」
「まあ、剣を抜いてないだけいいのかな? この前は大変だったから」
「あの時はあっちが先に抜いたんだぜ。正当防衛、正当防衛」
「正当防衛で相手を一方的に叩きのめして全治三ヶ月の怪我を負わせたの?」
「あれは……」
「少しは手加減しなきゃ。相手が貴族の坊ちゃんで、天と地ほどの差があるってことは分かってたんでしょ」
「……だってむかついたからさー」
「じゃあ、今回はそれほどでもないんだね」
「……うーん……」
「とにかく、けんかは駄目だよチヒロ。約束したでしょ」
「…………」
「さ、帰ろ。頼まれてたお使い終わったから」
「……うん」