蚊帳の外で籠の中。
●アウトサイダーズ
真っ暗な中に保健医の白衣がひらひら浮いている。目立つなぁ。息を吐く。白い。黒い学ラン、黒いコート、黒いマフラー。黒ずくめの俺は左肩に担いでいた金属バットを下ろして歩く。第二校舎から第一校舎へ至る下りの坂道。保健医との距離が縮まってゆく。
「どーも。こんばんは」
「御機嫌よう青少年」
「用事があるので失礼させていただきます」
「ん」
あっさりとすれ違う。連続器物破損事件のためのパトロールではないのだろうか。俺って思いっきり不審者ではないのだろうか。事情聴取をしなくてもいいのだろうか? 変な人だ。知ってたけど。
「坂村」
「なんですか」
呼ばれたので立ち止まる。見れば、五メートルほど後方で、保健医も振り返ったようだった。
「今日も何か壊すのか」
「はあ」
思わず間抜けな声を出してしまった。なんだ、わかってるんじゃないか。でも呼び止められたってことはあれか、ここらが年貢の納め時ってやつか。
夜間に使用されることなど想定されていない道なので明かりもなく、保健医の表情を窺うことはできない。だから言葉がとても唐突に感じられる。
「まさかとは思うが、キミはあの子を破壊しようなんて思っちゃいないだろうね」
「はぁ? 何言ってんですか」
いみがわからない。
「俺は、あいつが、好きなんです、よ」
「ねえずっと気になってたんだけどそれって所謂ぼーいずらぶなの?」
「そうですよ」
「あらまあ」
「そんなことより俺を捕まえなくていいんですか、センセー」
「そんなの保健医の仕事じゃないもの」
保健医は白衣を翻して(そういえば寒そうな格好だ)立ち去ろうとしている。だから俺も歩き出すことにした。
壊したいものを壊すのだ。手に入れたいものを手に入れるのだ。
声が聞こえた。曰く、人を傷つけないのなら私は別に構わないのよ、とのこと。
それでもあとで話をしましょうね、それが私の仕事だからさ、とのこと。