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土地神さんと僕

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『神が愛した青年』

タイトルだけで様々なことを想像してしまう。
どういった物語なんだろう、と空想を描く。
僕はこの瞬間がたまらなく好きだ。ある程度想像をしてから実際の物語へ入り込んで行く。
当然、自分が想像した物語とは異なっているため、自分の描いたシナリオを本来のシナリオへ描き変えていく。
作者はこう感じているが、自分ならこうだろう、という独自の視点や主観を大切にしながら。
つまりは物語に浸りながら、自分の物語も平行して進ませる。

僕は表紙をめくった。

『遥か大昔、その街のある土地には小さな村があった。
村は決して裕福ではないが、村人たちが細々と平和に暮らしていた。
しかし、米や作物が大不作により村は飢餓に襲われた。
その時ふらりとやってきた一人の少女によって村は救われた。

少女は人間ではなく、土地神と呼ばれ大飢饉と呼ばれた年でも作物は実り平穏に暮らす事が出来た。
そんな噂はどことなく広がり、その少女は国の命によって都へ監禁された。
土地神である少女がいなくなったその村はまた不作に見舞われ存続が危ぶまれた。
自分の土地ではなければ力を発揮できない少女もまた、都で辛い仕打ちに耐えていた。
人間を憎みそうにもなったある時、村の若い青年が少女を助け出した。

元の土地に戻った少女は再び土地を潤し、村に平和がやってきた。
自分のために命を張ってくれた青年にいつしか恋をしていた。
しかし、そんな平和な日々も長く続かず、少女を奪われた都の王は激怒し村を滅ぼした。
少女は自ら土地へ潜り、永遠の深い悲しみに明け暮れた。
それ以降、その土地では雨が多いことで有名となった。

何世紀か経ったある日、その土地に数名の村人がやってきた。
滅ぼされたと思われていた村人たちの子孫である。
彼らはなんとか先代の残した土地で生きて行こうと、試行錯誤し生計を経てて行った。
そして、住み着いた村人のなかに自分の愛した人の子孫がいることを知る。
どうにかして自分に気がついてほしかったのだが、長年の悲しみに暮れた時間により少女の力は随分と失われていた。

それでも見守りたい、という一心から、その土地神として微力ながら応援をしたという』

簡単に言えばこんな話だ。
しかしいくつか気になる点があった。土地の名前が実在しているということ。
これは何かの記録なんだろうか。

気がつけば窓から差し込む光は黄金色に染まり、夕陽がゆっくりと沈もうとしていた。

「げ、もうこんな時間か」
不意に人の気配を感じた。
本に夢中だったせいなのか、気がつけば座っている向かい側に一人の少女が本を読んでいた。
その少女を見た瞬間、僕の心にあるものが浮かんだ。

――その少女の横顔は紛れもなく女神そのものだった。

窓際に座ってゆっくりとページをめくる。
時折くすりと笑みをこぼしてみたり、少し曇った表情に変わったり。
夕陽に照らされた彼女の濁りない表情は僕の心を締めつけた。

恥ずかしながら、最近執筆していた自分の文章である。
現実を目の前にして、まさか同じことを思うとは夢にも思っていなかったが。

どこまでも深く、他の色の浸食を許す事のない漆黒の黒髪。
なのにどこか透き通っていて、深い黒とは思わせない柔らかなイメージをもたらす。
その長く背中まで伸びた髪は夕陽に照らされてもなお黒かった。

「やっと、気がついてくれましたね」
そう、小さく呟いた彼女の瞳はどこまでも見透かしてしまいそうだった。

作品名:土地神さんと僕 作家名:天宮環