土地神さんと僕
出会い
――その少女の横顔は紛れもなく女神そのものだった。
窓際に座ってゆっくりとページをめくる。
時折くすりと笑みをこぼしてみたり、少し曇った表情に変わったり。
夕陽に照らされた彼女の濁りない表情は僕の心を締めつけた。
「はぁ。 これじゃ駄目だな」
僕は打ち込んでいた文面を全てデリートキーで削除した。
現在僕はノベルを作っている。作っている、といえば響きは良いが単純に暇つぶしなわけである。
中学のころからある理由でライトノベルばかりを読むようになったおかげなのか、自分でも書いてみたい衝動に駆られた。
それが高校1年の夏。
高校生といえば同世代の友人と夏を満喫すべく外へ駆り出し、たくさんのイベントをこなして青春を謳歌すべきところなんだろうけれど、生憎身体があまり丈夫でない僕がインドアになるのはごく自然の流れだ。
されど人生で特に有意義に過ごせるであろう今この瞬間を無駄にしたくない、というライトノベル愛読者としては、限りなくゼロに近い可能性を求めて学校へ来てみたりする。
夏休みなのにね。
学校の図書館はエアコンが効いているので、不自由がない。
それに静かにライトノベルを読めるのも大きな利点である。腹が空けば食堂へ行けば問題無い。
両親共働きな僕にとって、学校の方が何かと便利であった。
「燵磨(たつま)、今日も来てるんだ」
こんな感じで誰かに話しかけられたりするからね。
「って、うわ!」
「うわ! じゃ、ないよ。急に大きな声上げたらびっくりするじゃない」
そう言って抱えていた大量の本を机の上に置く一人の少女。
「唯、今日もお仕事お疲れ様」
彼女は美月 唯(みつき ゆい)。同じクラスの図書委員。
幼稚園からの付き合いで、いわゆる幼馴染。
ただ幼馴染だからといって唯が朝起こしに来てくれたり、何かと世話を焼いてくれることはない。
なによりも互いに恋愛感情はないからな。
「お疲れ様じゃないわよ! 燵磨も図書委員でしょうが、私ばっか仕事させないでアンタもやりなさいよ!」
何を隠そう、僕も図書委員なのである。
エアコンがどうだとかいろいろ言ったが、ただの仕事だ。
「ごめん、ごめん。返却された本の中に読みたかったやつがあってさ。ちょっとだけ、のつもりがついつい」
「何がちょっとよ! 燵磨はすぐ本に夢中になるんだから、読むなら仕事終えてから!」
埃っぽい本を本棚に戻しながら唯は仕事をこなす。
「じゃぁさっさと終わそっか」
僕も机の上に置かれた大量の本を元あった場所へ戻していく。
うちの学校は夏休みになると読書感想文を最低5つは提出しなければいけない。
そのため図書館の本の貸し出し量が一気に増え、図書委員の仕事が大忙しになる。
その仕事に追われる反面、図書委員は読書感想文を1つだけで良いという特例がある。
その特例を狙って図書委員になるやつが多いのだ。
傍でせっせと働いている唯もまた、そのうちの一人である。
「あー、もうこの本どこのやつよー!」
彼女は元々読書家でもなんでもなく、本にも興味がない。
本に興味ない人が図書委員をやるのはどうかと思ったが、
『学校の委員なんてそんなもの。所詮進学するための内心点稼ぎよ』
ということらしい。
幸い、今日は返却量も少なく昼までに仕事が終わりそうだった。
「唯、今日はもういいよ。あとこれだけだからやっとくよ」
「マジ! さんきゅー燵磨! 私午後から用事あったから早く切り上げたかったんだよねー」
手に持っていた本を机の上に置き、彼女は笑顔で図書館を出て行った。
手に持ってるやつくらいは片付けてほしかったんだけども。
その後、1時間もしないうちに片付けは終わった。
片付けの途中で見つけた1冊の本を手に取り僕は窓際の座席へ移動した。