初恋
帰りの新幹線で友人達が眠りこけている中、トイレに行こうと席を立ったとき、デッキに沙紀がいるのを見かけて話しかけてみた。始めはどうでもいい話、そこから、なんとかあのときの話にもっていくことに成功した。
「沙紀は失恋したばっかりだって言ってたけど、あれ、本当?」
私の直球に目を丸くする彼女。
「え? 本当だよ。どうして?」
「あ、そうなの?
いや、なんとなく、みんなの質問をかわすためにああ言ったのかなと思ってた」
「あはは。奈緒はどうしてそう思ったの?」
「特に理由はないかな、なんとなくだね。自分も適当に言っただけだし」
「そうだったんだ。じゃあ、私も本当のこと言っちゃうけど、あれは嘘。
失恋もしてないし、今好きな人もいないよ」
彼女の本音を聞きだし、自分の予想が的中したことに満足する。私の嘘を知っても特に気に留めない様子に、彼女にだったら言っても構わないのではないかと思った。
「実は私、まだ好きな人できたことないんだよね」
過去にこれを言って何度からかわれたことか。それでも彼女なら、そうしないような気がしていた。そしてその予感は当たっていた。
「そうなんだ。まあ、無理に見つけなくてもいいんじゃない?」
「そう?」
「うん、そうだよ。別に今すぐ彼氏欲しい!とかって思わないんでしょ?」
「うん、思わないね。友達とワイワイやってるだけで楽しいし」
「なら、それでいいと思うよ。私も遊びに行くの、いくらでも付き合うし」
そう言って笑う彼女に、今までにない親近感を覚え、これがきっかけとなり、私達は2人で遊ぶことが増えていった。
それまで私は誰かと2人だけで遊ぶということはほとんどしなかったから、始めのうちは妙に緊張したりもした。しかし、彼女は人を和ませる才能でもあるのではないかと思うほど、あの穏やかな口調と態度で私の緊張などあっという間に解いてしまった。みんなで遊んでいたときには気付かなかった彼女の女の子らしい仕草や態度を見つけるたびに、私はまるで宝物を見つけた子供のようにうきうきとした心持ちになった。
彼女と一緒にいるのは非常に気が楽で、特に何かするわけでなくともお互いの家に行き来するようにもなった。たまに訪れる沈黙の時間ですら彼女となら心地よく感じていた。いつの間にか私達は常に行動を共にするようになり、友人達の間でも2人でひとくくりに捉えられるようになっていた。
私は無駄な気を使わず素のままの私でいられる初めての相手を見つけたのだと感じていた。