密研はいりませんか?
タクシーが来るのを仕切りに気にしながら窓を見ていた。腕にはめていた時計に目を落とす。時刻は夜の九時四十七分を指していた。
まだなの。
そう思いながらも、注文したハンバーガーを口にくわえた。
組織は私を異教徒や国家反逆罪の人間とでも思っているのかしら。今はそれでも構わない。でも何が正しくて、何が間違っているか。それだけを質問されたとしたら、いつか英雄にはなれるはず。
その時、店の前に一台の黄色い車が止まった。急いでトレイをゴミ箱の中に突っ込み、店を出た。タクシーに乗り込み「ランドールレクリーエーションセンターまで」と言った。
運転手は軽く返事をし、着いて早々車を出した。
静かに目を閉じた。昔から目を閉じるだけで疲れが少しだけだが無くなると思っていた。束の間の休息。
今まで自分はどれだけ嘘をついてきただろう。数えた事はなかったが、非常に多い事は分かっている。人を騙すたびに「お互いの為」だと自分に言い聞かせてきた。そして今回も。だが、今回ついた嘘は最初から自分の為になるとは思っていなかった。むしろその逆だとも。まともに一人の母親にもなれなかった自分に対して、一回でも真っ当な事がしたかった。ただここまで来たら、やるべき事はまだ残っている。やり遂げた後の事はあまり想像したくはない。何にせよ、組織に関わった時点でいい事は起きないのだから。
作品名:密研はいりませんか? 作家名:paranoid