密研はいりませんか?
「そう、正解」
「そしてこっちのT・h・e・oの読み方はセオだ。んで、こっちがウルフで……。一単語でセオウルフ」
そう言いいながら、単語の下にセオウルフと書いた。
「意味は?」
俺がそう尋ねると、待ってたとばかりに笑みを浮かべた。
「これは、造語なんだ」
「造語?」
「そう。前のセオは英語で『神』を表すらしい」
「え? 神ってゴッドじゃないの?」
そう尋ねると、山勢は渋い顔をした。
「そこはよく分かんない。まぁ単に自分の調査不足なんだけど」
え? もう曖昧な事が出てきちゃったよ。
そう思ったのを察したのか、説明を始めた。
「もともと、theoはギリシャ語で神を表す、『theos』から来てるらしい。ここからは自分の考えだけど、もともとゴ――」
「おけ、おけ。分かった、分かった大丈夫」
説明が長くなると感じ、止めさせた。
「そう?」
山勢は、疑問の表情の中に話したがっている表情を含めながら、そう言った。
「じゃ、本題に入らしてもらうね」
山勢の表情がどこか真面目になったような気がした。
「このセオウルフって調べて分かったんだけど、なんかの組織みたいなんだ。この組織を見つけたのは、ちょうど……四日前ぐらいだったと思う。いつも通りネットでネタを探してたんだ。でー何かの拍子で普通の人のブログに入っちゃって、そしたらコメント欄に数行の英文があってさ。全然ブログの記事とは関係ないように思えたし、最初は荒らしだと思ってたんだけど、その英文の中にtheowoolfってこの言葉が頻繁に出て、暇だったし文もそんなに長くなかったから、気になって自分なりに訳したんだよ」
山勢はそう言って、教卓の上から紙を二枚とり、俺たちに渡してきた。
そこには、何かを露骨に訴えようとしてる内容が書かれていた。
「セオウルフを知っているか。いや、知らなくてもいいかもしれない。彼らは、変革を必要としている。そしてその変革とは人間に大きく関わる事だ。セオウルフは全ての境を否定する。セオウルフは、起源を崇拝する。あの栄光の時を再び手に入れ、ただ一つの起源の住処に導かれる事を欲している」
近藤がオカルト番組のナレーターよろしく、わざと声を低くしてそう読んだ。
「全ての境を否定? 起源を崇拝? ただ一つの起源の住処? ネットの翻訳サイトでも使った?」
俺は文の意味が全く分からず、そう尋ねた。すると山勢は不機嫌な表情になった。
「僕が使うわけないだろ。信憑性もクソも無くなる。ちゃんと訳したさ。でもそこが分からないんだ」
「原文はある?」
近藤がそう尋ねると、山勢は表情を変えず、首を横に振った。
「それが奇妙で、僕が知らない単語をネットで調べて戻ってきた時には記事自体が消されてたんだ。だから本当はあと一文あったんだ」
「何だよそれ。話が上手く行き過ぎてないか?」
山勢は、今度は頷いてみせた。
「確かに、上手く行き過ぎてると思うし、記事が消されたのは単にブログの管理者が消しただけかもしれない。だけど、セオウルフについてかなり気になって、theowoolfって検索して根強く頑張ってみたら、こんなのが出てきたんだ」
山勢はそう言ってさらに一枚の写真を渡してきた。
「これは何の地図?」
眉間に皺を寄せ無意味にその写真を透かしながら、尋ねた。それはまるで、事件の捜査で見つかった証拠をビニールの袋に納めたような雰囲気の写真であった。そこには左端に古い地図の断片らしきもの、右側に筆記体で書かれた何かの文章。ところどころインクが染みていて読めない部分もあった。
「それに読めないし」
近藤は筆記体を指でなぞってどんなアルファベットか考えながら、そう漏らした。
「その英文は後で英語の先生にでも訊くとして……問題はこの地図さ」
山勢はそう言いながら、写真をマグネットで黒板に貼った。
「正直な所、これがなんの地図かさっぱり分からないんだ」
山勢は笑みを含めながらそう言った。
「ただの、作り物って事もあるし?」
近藤がそう言った。
「そう、その可能性も大きい。でも今からする説明で少しでも考えが変わると助かるんだけど」
山勢はそう言って、再び黒板の右端に立った。だが、どこか自信の無い顔をしていた。
「このウルフ。日本語に訳すと狼だ。まぁそんなのは誰でも分かるよね。じゃあ、前のセオとくっつけて、狼の神様? って事だと思うでしょ?」
近藤と俺は頷いた。
「僕も最初はそう思ってたんだけど。それじゃ、狼の神様を信仰してる組織って感じになってなんか、そこではい終わりって感じだったんだよね」
一旦言葉を切る。
「大抵の人だったら、気にもしないからそこで考えるのをやめて、新手の宗教団体か何かって思ってそのままスルーすると思うんだけど。宗教団体って普通、信者を増やしたいからネットで公式サイト作って、そこで自分達の考えを語ったり、勧誘したりするもんでしょ。だけど、このセオウルフって組織、全然宗教団体っぽくないんだよ。公式サイトもあるわけじゃない、ましてや自分達の考えも語らない。勧誘もしない。あったのはこの謎めいた文達と古びた地図だけ。こんなのが宗教団体な訳がないんだよ」
「で、また結局振り出しに戻った?」
俺が山勢の顔を観察しながらそう訊いた。
「いいや、それが……それからいろいろと考えてみたんだ。セオにはどういう意味があるのか、ウルフとは」
「それで?」
近藤が急かすようにそう尋ねた。どうやら、セオウルフについて気になり始めているらしい。
「一回、自分の訳した文を読んでみたんだ。そこで引っかかった」
そりゃそうだろうな。あんなに意味不明な文章を読めば誰だってそうなる。
「ただ一つの起源の住処。起源にはいろんなものがある。例えば、人類の誕生。文字の起源。世の中に新しいものが誕生するたびに起源は増えていく。だけどこの文章にはただ一つの起源ってかいてあるんだ」
「もうちょっと短縮できない?」
またも近藤が口を挟んだ。それに対して山勢は笑みを浮かべながら、頷いた。
「ただ一つの起源それはこの地球が誕生した事なんだ。地球が誕生した事が何よりも宇宙以外で最初の起源だからね。そして『起源の住処』これは意訳して神の住処だと思う。創世記では神が地球を創ったからね。だから、神自体が起源を生み出すものだって考えて。つまり、ただ一つの神って事。それでピンと来た。ウルフ、狼のつく言葉に一匹狼ってあるだろう。簡単に言うと、セオ=神、ウルフ=一匹狼で神は一人。あるいは、本当に一匹狼の神様だとか」
「もしくは、宇宙を創造した創造主だとかね」
近藤が皮肉っぽくそう言った。山勢はまたも頷くだけだった。
「え? 何で?」
近藤の言っている意味が分からなかった。
「だって、一番最初の起源て宇宙だって可能性もあるじゃない。宇宙が誕生しなきゃ、地球だって誕生しない」
「なるほど」
見事にあっさりとした答えだった。
「じゃつまり山勢の考えは三つも可能性があってどれも否定できないって事?」
そう尋ねてみた。
「そう」
山勢がそう言った。その返事にはあまり納得がいかなかった。
「それって……説得力なさ過ぎじゃない?」
作品名:密研はいりませんか? 作家名:paranoid