黄金の里
「十日ほど前、西の国に攻められて。あっという間でした。その日、わたしはこの子と山にわらびを採りに行っていました。おかげで命拾いしたのです」
「あんたたちのほかにはだれも?」
「はい。それはもう、恐ろしいありさまでした。西の国の兵隊は、人間ばかりか、命のあるものはみな手当たり次第殺して、火をつけていきました」
母親は身体を震わせてすすり泣きました。
伊作の脳裏に、西の国の殿様の笑い顔が浮かびました。
『伊作が作った刀を運ぶからと……』
この時、伊作ははじめて西の国の殿様のたくらみに気がついたのです。
(なんてこった……)
愕然と肩を落とす伊作に、母親が尋ねました。
「もしかしたら、あなたは刀鍛冶の伊作さんでは?」
伊作はどきっとしましたが、隠さずに自分の身分を明かしました。
「は、はい。そうです」
「あなたのお父上はご立派でした。最後まで戦に反対されて……」
父ちゃんはやはり、この国の殿様に殺されていたのです。
「おまえが悪いんだ!」
男の子が叫びました。
「おまえが刀なんか作るから、おれの父ちゃんも戦で死んだんだ」
男の子は伊作にしがみついてこぶしで、叩きました。
「おやめなさい。この方を責めても仕方のないことですよ」
母親は静かに男の子を諫めました。
伊作は、自分のしてきたことがどれほど愚かだったか気がつき、地面に顔をこすりつけて泣きました。
「すまない。おれがバカだった」
「伊作……」
穏やかな声が伊作の頭の上から聞こえました。その声に顔を上げると、いつのまにかたくさんの人が伊作を取り囲んでいて、目の前にあのおじいさんがたっています。
「あ、あんたは」
おじいさんはにこやかに伊作に言いました。
「伊作。わしを思いださんか」
伊作は、おじいさんの顔をまじまじと見つめました。
深くきざまれたしわの奥に、やさしく光る瞳。そのまなざしはどこか懐かしさを感じさせます。
「ああ、じいちゃん!」
「やっと思い出してくれたか」
おじいさんは伊作の方をぽんぽんと叩きました。
昔、行方不明になったじいちゃんです。だいぶ年をとって白髪だらけで、腰も曲がっていますが、たしかに伊作を可愛がってくれたじいちゃんです。伊作は小さかったので、すっかり顔を忘れてしまっていたのでした。