黄金の里
伊作はカッとなって金塊をおじいさんに投げつけました。
ガツッ!
鈍い音がして、おじいさんの額から血がしたたり落ちました。
「お前の父親の死を無駄にするな」
「なんだって? 父ちゃんは死んだのか? おい、じいさん」
おじいさんはふりむきもせず、よろよろと去っていきました。
伊作は呆然と佇むばかりでした。
夜が更けてから、伊作は一層不安な気持ちになりました。おじいさんのことばが頭から離れないのです。
伊作は強い酒を何杯も飲んで、明け方近くになってようやく眠りにつきました。
「伊作……い……いさ…く……」
かすかに自分を呼ぶ声で伊作は目を覚ましました。あたりは真っ暗で自分の部屋なのかさえもおぼつきません。
伊作は暗闇に呼びかけました。
「だ、だれだ」
「わしだ。伊作」
弱々しい声ですが聞き覚えがあります。
「父ちゃん、父ちゃんか?」
「伊作。刀をつくってはいかん。刀は身を亡ぼすもとだ。いいな」
その声を消すように、今度は違う声が聞こえてきました。
「この嘘つきめ! わしをだましおって」
東の国の殿様の声です。
「裏切り者め! この責任はおまえの父親の命でとってもらったぞ。おまえの刀はよく切れるのう」
頭の中で、殿様のあざけるような笑い声が響きます。伊作は気が遠くなりました。
目が覚めたときは、昼近くでした。伊作はのろのろと起きあがって、井戸の方へ行き、顔を洗おうと水を汲みあげました。すると、その水が真っ赤です。
「うわっ」
おどろいた伊作は思わず手を放し、釣瓶を落としてしまいました。けれど、よく見るとそれはただの水でした。
伊作は夢のこともおじいさんのことばも気になった仕方ありません。いてもたってもいられず、その夜遅く、こっそり旅立ちました。
国を黙って抜け出すのは重罪です。伊作はできるだけ目立たぬよう間道を通って、東の国を目指しました。
伊作はひと月かけて、ようやく生まれた国に帰ってきました。
ところが、行けども行けども焼け野原です。町中すべて焼き払われて一軒の家すらありません。そのありさまに、ただ呆然とするばかりです。
ふらふらとさ迷い歩いているうちに、柱を組み合わせて草をかけただけのあばらやを見つけました。そこには母親と男の子がいました。