黄金の里
伊作は興奮して鉱山から戻ってきました。
「殿様。噂どおり、ここの鉄は上質でございます」
「そうか、この鉄で刀が作りたいとは思わぬか? 伊作」
「はい。ぜひとも!」
「そうか。おまえのことじゃ。そういうと思ってな。先ほどおまえの殿様には、ここで刀をつくって持って行くという親書を出しておいたのじゃ。そうすれば、おまえも重い鉄を持って長旅をせずにすむじゃろう」
刀を作ることしか頭にない伊作は、二つ返事で西の国の殿様に従いました。
りっぱな屋敷も仕事場も与えられた伊作は、上等の鉄でどんどん刀を作りました。
そして、西の国の殿様が、「これからは鉄ではなく、伊作の刀を売る」とおふれを出すと、たちまち近くの国から買い手が殺到したのです。
西の国は一層金持ちになり、伊作もたくさんの褒美をもらいました。
間もなく伊作は、西の国で百人もの弟子をかかえるようになりました。
伊作は牢屋に入っている父ちゃんのことさえ思い出すことなく、来る日も来る日も刀造りに明け暮れました。
二年ほど経って、西の国での生活にすっかり慣れた頃、伊作の元に一人の客がやってきました。
その人はすっぽりと頭巾をかぶっているので顔が見えません。ただ、黙って伊作の目の前に金の塊を差し出しました。
「こんなはした金塊じゃ、短刀しかできないね」
伊作は高飛車に言いました。
「あいかわらずじゃのう。伊作」
そういってその人は頭巾をとりました。
「あ。あんたは」
その人は、いつか父ちゃんに鍬を注文したおじいさんでした。
「あ、あのときの。おまえのせいで父ちゃんは牢屋に……」
と言って、伊作は思い出しました。そうです。父ちゃんは牢屋に入ったままなのです。
「ほう。おまえの父ちゃんは牢屋に入っているのか」
「そうだ。おまえがそそのかしたせいで、父ちゃんは刀を作るのをやめちまって……」
「ちがう! もともとお前の父親は人殺しの道具を作るのがいやでたまらなかったんじゃ。じゃが、幼いおまえのために我慢して……」
「いい加減なことを言うな!」
「伊作。いいか、鍬を作れ。土を耕せ。それが本当の人間の生き方なんじゃ。まちがっても土を血で汚してはいけない」
「うるさい。戦をするのは殿様だ。おれじゃない」
「同じことじゃ。おまえの打った刀が人を殺して血を流す」
「うるさい! とっとと帰れ!」