たかが映画、されど映画
歩く、人
2001年監督 : 小林政広
出演 : 緒形拳、香川照之、林泰文、大塚寧々
脚本 : 小林政広
2001年の製作ですから緒形拳の体調はまだ大丈夫だったのでしょうか。
北海道増毛町のロケは、かなりたいへんなだったように見えます。
香川にとっても初期の作品ですが、リキの入った演技で緒形に対峙しています。
二人だけの愛憎場面は、寒気の中にピアノ線を一本ピーンと張ったような空気に支配されています。
この二人の演技は想定内(最近のハヤリ言葉)ですが、次男役の林泰文と、緒形演じる信雄が毎日2キロの雪道を通う相手、佐代子役の熊谷美知子が共にとても良い味を出しています。
父と子の確執、家族内介護の先行き、あまりに多種の作品で描かれているこれらの題材、かつ緒形x香川の重くなり勝ちな展開を、この二人がうまく緩和し奥行を与えています。
少し前に観た『歩いても 歩いても』を思い出してしまいました。
あちらは一見穏やかでも、畳裏に毒が含まれているような居心地の悪いものでしたが、こちらは一見いさかいばかりのようでも、しっかりと家族への愛が滲んでおり、長男の帰っていく列車を見送る父の目は緒形の真骨頂の趣です。
目といえば、老人と男の境目を緒形はやはり目だけで演じているのですが、男を表す時の表情がなかなかに美しいのはさすがというべきなのでしょう。
難は音楽。この作品にサンサーンスは合わないし、前半の緒形が歩く場面で必ず流れる、初期のアーケード・ケームの電子音モドキの旋律は、作品を一見軽薄なものにしてしまっています。
あ、それと、タイトルロールが流れても立ち上がらないように。
最後の最後のワン・ショットが、ラスト場面の「えーそんな~」を救います。
作品名:たかが映画、されど映画 作家名:しん よしひさ