狂宴の先
「そこですのね、ザフォル!」
やっと見つけた。スウェラは歓喜した。居所さえわかってしまえばこっちのもの。ありったけのエネルギーを闇の炎に変えて声のしたところに叩き込む。脳裏にあの男が苦しみもだえる姿が掠めた。
しかしそれは儚い幻。
「危ないじゃねぇか。スウェラ嬢ちゃん」
スウェラの炎は何も焼き尽くすことはなかった。ザフォルの肉を自らの手で抉り、その体内に直接炎をぶち込むことはできなかった。
その手はザフォルの体に触れる直前、男の手によって阻まれていた。スウェラの手はきつく男によって戒められ、つまり同時に、再び身動きを封じられていた。
「手伝ってくれるのはありがたいんだが、おまえさんにうろちょろされると、俺もさすがに煩わしくてなあ」
スウェラの頭の中をざわつかせる、不快な声。また笑っているようで笑っていない。
スウェラは腕をふりほどこうとした。しかし腕はぎしぎしときしみ、またそれをすることができない。恐ろしさからふりほどけないのではない。そんなものはとうにスウェラの頭の中からは吹き飛んでいた。
けれど、こんな男の力などどうせ虚構にすぎないはず。長ヴァシルと並び立つなどというのもはったりでしかないのだ。脅しだとてあの男の『フリ』だ。自分が恐れるところを楽しもうと言うだけ。この男は本気でどうこうする気など端っからない。いや、できはしないのだから。
「その手にはもう乗りませんわ。お前に弄ばれるなんてもうまっぴらごめんですもの! その汚らわしい手をお離しなさい!」
「自分から飛び込んできておいて、離しなさい、はないだろうよ。相も変わらず自分勝手なことだ。おまえさんたちは」
ふっと一瞬ザフォルの手から力が抜ける。自分の言葉にやる気が失せたのだろうと思った。所詮この男の性格などそんなもの。
スウェラはザフォルの手を叩きはらおうとした。だがその行動こそが間違いだったということに、ザフォルの表情が何かいつもと違うのだと言うことに、スウェラはそのとき気づくことができなかった。
「やっぱちっとばかし、おとなしくしといてもらった方が良かったかね」
頭を鷲掴みにされた。この上子供のようにそんな風に扱われるなど屈辱以外のなにものでもなく、怒り極まってあらがおうとしたその直後。
「俺もそろそろ遊んでるわけにゃいかねぇよ。お別れだスウェラ」
まるで憐れむようなザフォルの言葉。その意味など知る気もなかったが、その声と共に耳元、いや脳に直接に響きわたった激震にスウェラの意識は吹き飛んだ。