狂宴の先
なぜ言葉が震えるのだろう。なぜこれほどまでに気押されているのだろう。これほどの圧力をスウェラは感じたことがなかった。かつて一度だけ間近に感じた長ヴァシルの力とも違う。感情という名の津波のような、荒れ狂う暴風のようなもの。これほどまでの気迫が身に迫ったことなど、今までにない。
恐怖だというのか? これが恐怖だと? 人間どもと対峙しているときには一切感じることなどなかった感情を、むしろガルグの民であるからこそ他の何者にも感じることなどありえないはずのその感情を、よりにもよって腰ぬけのザフォルによって味合わされているというのか?
ありえなかった。けれど、体が、心が震える事実は変えようがない。
これは一体どういうことだ? どうすればいい? あらゆる手立てを考えた。結果、スウェラはその感情を隠蔽しようとした。晒せるわけがない。自分自身にそんな感情があるなどと言うことを、認めるわけになどいかない。あくまで表面では平静を保っていられれば、この男の前に醜態をさらすことにはならないはず。
しかしザフォルは迫る。押しのけようとしたのにそれすらできず、壁とザフォルに挟まれるようにして、スウェラはもはや立っているのもやっとの状態になった。ほとんど密着の態勢。しかしそれではいくら隠し通そうとしたとしても相手にもスウェラの怯えは伝わったことだろう。
実際それを示すようにザフォルがスウェラの耳元で囁くようにのどを震わせた。思わず、スウェラは身をこわばらせる。冷や汗が伝う。このままザフォルによって自分の存在は抹消されるのだろうか。
そんな危機感にすらかきたてられたその時。訪れたのは、スウェラが予感したような最後通告ではなかった。
「ああ、そういえば、研究所の掃除を手伝ってやるんだったな」
思いもよらずあっさりと手放したザフォルに、スウェラは腰砕けになってその場に崩れそうになっていた。安堵と言うよりももはや虚脱でしかなかった。