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天使の羽

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 彼女がいてもちっとも不思議ではない年齢だ。親に合わせるという事は、それだけ彼女が大切だという事でもある。
「俺自身、母さんと会うのは十五年振りでさ……」
「え?」
 訳が分からず少年が首を傾げる。
「町外れのホスピスにいるんだ、母さん」
 ホスピスは病院とは違い、病気の治療の為だけにあるのではない。勿論、治療が前提だが、重度の病の人が、自分の病気と向き合い、残された時間をゆったりと過ごす為のものでもあるのだ。
 そういう病気なのかと少年は勘ぐるが、十五年もの間入所しているのだとしたら“重度の病”とは少し違うかなと思い直す。
「俺もそのホスピスで生まれた」
 タカヤスが淡々と話を続ける。
「俺を妊娠中に事故に合ってるんだ」
 十九歳の冬、クリスマスデートの途中で事故に巻き込まれた。まだ二人とも学生で、でも、お互いに決めていた“将来”。最初は反対した両親も、二人の真剣さに“成人したら”の条件付きで承諾した。楽しい筈の独身最後のクリスマス。一瞬にして打ち砕かれたふたりの未来。嘆き悲しむ双方の両親への唯一の朗報は、女の子の中に新しい命が息づいていた事だった。
「お父さんは?」
 少年の質問にタカヤスが首を振った。
「いない。事故で母さんをかばってそのまま……」
「お母さんを命がけで守ったんだね、お父さん」
「“守った”っていうのは、ああいう状態の事を言うんだ!」
 目の前を通り過ぎる母子連れを指差してタカヤスが声を震わせる。
「病院に運び込まれて意識を取り戻した時、母さんは、そこにはいなかった」
 少年がまたもや首を傾げる。
「体はベッドの上。……だけど、心は、父さんと一緒に……。身体だけ助けて心を連れてくなんて、“守った”とは言わないだろ!?」
 言葉を失う少年。
「それでも、五歳くらいまでは祖父ちゃん達と会いに行ってた。でもさ、俺が行って、“お母さん”って呼んでも何の反応もないんだぜ。……気がついたら、行かなくなってた」
「それが、どうして急に?」
「あいつに話したら、“会いたい”って……。そんな事言ったの、あいつが初めてだよ」
 彼女を思い出し、タカヤスが小さく笑う。
作品名:天使の羽 作家名:竹本 緒