天使の羽
少年が微笑む。
「彼女と取りに来れば」
その言葉に、タカヤスが頷いた。
「じゃ、明日取に来ます」
「文字はいかが致しましょう?」
「“T to NANA”で……」
「かしこまりました。それでは、こちらにお名前とご住所を……」
目の前に預り書を差し出され、タカヤスは名前を書き始めた。
―――――――――――
「いいんじゃない、彼女と取りに来れば」
自分で言った言葉に、少年はハッとした。
今、何かが脳裏を過ぎった。署名を始めたタカヤスを横に、一瞬で消えた記憶を手繰り寄せる。
“Star to Moon”
指輪の裏に刻まれた文字。星から月……。何を意味しているのだろう……。
「お待たせ!」
タカヤスに肩を叩かれ、少年は我に返った。
―――――――――――
「どうした、ボーッとして?」
「いや、別に……」
少年の様子にタカヤスがハッとする。
「ひょっとして、何か思い出した?」
「“思い出す”って言うより、何か、パッって出て来た感じ……」
「何?」
「一瞬で消えちゃったから……」
「ダメじゃん!」
“仕方ないか”と笑うタカヤス。
咄嗟に誤魔化したのは、曖昧すぎる一瞬の記憶の所為。ここからでは、なんの答えも見出せないと思ったから……。
歩きながら大きく伸びをするタカヤスに少年が早足で並ぶ。
「終わったね、買い物」
一段落と微笑む少年に、タカヤスが溜息をついた。
「今度は何が心配?」
“いくらなんでも、引渡しの瞬間には同行できないよ”と少年がタカヤスの肩を叩く。
「お前のは解決してないじゃん」
「ボク!?」
「そ! ……それと……」
タカヤスが言葉を濁す。
「何?」
「……いや、いい……」
「良くないよ!」
視線を逸らしたタカヤスに少年が食い下がった。
「ボクのが解決するまで付き合ってくれるつもりなんだろ? だったら、ボクも君のが終わるまで付き合うよ」
「でも、お前……」
「いいじゃないか。クリスマスなんだし。お互いさまだろ?」
そして、近くのベンチに腰掛ける。
「彼女を母さんに会わせようかどうしようか悩んでる……」
「そんなにマズイ事なの?」