天使の羽
「だから、連れてくるって言いに行こうかなって……。丁度クリスマスだし、なんか持って……。祖父ちゃん達に言ったら、祖父ちゃんから“プレゼント”を預っちゃったんだ。祖父ちゃん達からプレゼントがあるのに、俺が手ぶらって訳にいかないじゃん?」
「何だ、そんな事」
拍子抜けしたように少年が笑った。
「そんな事って!」
憤慨するタカヤスに、
「行くだけでいいじゃないか」
少年が微笑む。
「君が会いに行ってあげる事が、一番のプレゼントだと思うよ」
「……そうかな?」
「そうだよ」
少年の言葉に、
「よしっ!!」
タカヤスが立ち上がった。
「行くぞッ!!」
少年の腕を掴んで……。
「え!?」
「ついてきてくれよ」
腕を掴んだまま、タカヤスが片手を顔の正面に立てる。
「十五年振りだぜ、行き辛いじゃん」
「でも、ボクは……」
「見付かるまで付き合うからさ!」
“明日でも、明後日でも”と少年を見詰めるタカヤス。その顔に、仕方ないなと笑う少年。
「約束だよ」
「おうっ!」
そして二人は歩き出す。バスに乗る為、歩行者天国を抜けて大通りへ……。乗り込むバスは向こう側を走る為、信号を渡らなければならない。二人が渡ろうとすると、丁度、信号が青から黄色、黄色から赤へと変わりはじめた。手前で足を止める。すると、二人の横の道路から、物凄いスピードでスクーターが右折してきた。折しも信号は黄色から赤。反対の信号が青へと変わる。
“キキキィーッ!!”
走り出した自動車が、飛び出してきたスクーターに急ブレーキを掛ける。
―――――――――――
響き渡るブレーキ音に目を閉じた。
再び脳裏に過ぎる、遠い記憶。迫り来るヘッドライト。立ち竦む少女。飛び出す……自分。落ちるプレゼント。泣き叫ぶ通行人。
全てが一瞬の内にフラッシュバックする。
―――――――――――
「あっぶねーなー……。なっ!」
「う、うん、そうだね」
握り締めた手が、冷や汗でびしょ濡れだ。
目の前の交差点では、何事も無かったかのように車が行き来し始めている。
「お前、ビビり過ぎ!!」
少年の動揺に気付く事無く、タカヤスが笑った。