天使の羽
「何? 良いの見付けた?」
同じマネキンの前で足を止め、少年がその服を指差す。
「これ、この前、あいつが着てたのと似てるなって……」
白いファーのケープコート。淡いオレンジのセーターの上に羽織っていたのを思い出す。
「ふーん……」
タカヤスの想いに同調するかのように見詰める少年。しばし二人で佇む。
「……で、どう?」
自分の横でマネキンを見ている少年にタカヤスが訊ねると、少年は黙って首を振った。
「っし! じゃ、次!!」
勇んで次の建物にGO!
――― そして全ての店を制覇し終わる。服飾関係、CDショップ、ジュエリーショップ、花屋にスイーツの店、もう、入れる店はない。
「決まらなかったね……」
呟く少年に、
「お前こそ……」
タカヤスが返す。
歩行者天国の端から端までの飲食店以外の店を全店回ったのだ。もう、クタクタである。
「彼女って、どんな子?」
普段は車道、今は遊歩道状態の道路に並べられたベンチに座って、少年が問い掛けてくる。
「一言で言うと、“大人しい子”。遊園地より公園。ゲーセンより映画館」
「今まで、何をあげたの?」
少年の言葉に、タカヤスが首を振る。
「いらないって言うんだ、あいつ……」
貰いたくないのではなく、必要ないのだと彼女は言った。
“タカヤスがいてくれるだけでいいの”
思い出し、ひとりで赤くなるタカヤス。
今まで付き合ったどの子も、そんな事は言わなかった。自分がプレゼントよりも優位に立っているのは初めてなのだ。嬉しいと同時に、そう想ってくれている彼女が何よりもいとおしかった。
「ほんとに好きなんだ」
タカヤスを覗き込むように少年が笑う。
「“本気”を伝えたいんだ?」
少年の笑みにタカヤスが頷いた。
「だったら、やっぱり、指輪じゃないかな?」
「でも、派手なのとか嫌いだし、指輪じゃ重荷にならないかな?」
さっきまでの快活さは何処へやら……。一転してアタフタし始める。
「大人しいデザインのを探せばいいじゃないか」
「でも……」
「君の“本気”は“重荷”になるの?」
そんな筈はない。……というか、それはイヤだ。タカヤスが首を振って否定する。
「じゃ、決まりだね。サイズは?」
「7号!」