天使の羽
と、少年を指差す。つられて、少年も自分を指し示す。
「今は……いない」
その言葉にタカヤスが即座に反応。
「前は“いた”って事?」
「……多分……」
あやふやな回答にタカヤスが溜息をついた。
「本当に“記憶喪失”じゃないの?」
「……違う……」
「でも、覚えてないんだろ?」
問い掛けに頷く少年。
「……いつも、ここにいる。誰かに会う為。何かを渡す為。でも……誰に……何を……」
そう言って、少年は遠くを見詰める。
「考えるより、まず、動け! って事だ」
そんな少年を現実に戻すかのように、グイッとその手を引っ張って、タカヤスはすぐ目の前の店に入った。
「服……かぁ……」
入ったのはブティック。男子ふたりはとっても不自然だったりする。
「彼女の好きな色は?」
動じること無く、少年が洋服に手を伸ばしながら訊いてくる。
「オレンジ」
「オレンジ、か……。難しいね……」
季節柄、あまり無い色だ。
「サイズは?」
「サイズ!?」
「うん。何号? もしくはMとかSとか」
あれ? とタカヤス。
「わかんねー……」
エヘヘと笑って誤魔化す。
「じゃ、服はダメだね」
「お前は?」
タカヤスが少年を指差した。
「え?」
「なんか思い出したりしない?」
「あ!」
と少年が店内を見回す、が、すぐさま首を振る。
「ダメか……。いいや!次行こ、次!」
項垂れる少年の腕を掴むと、タカヤスはサッサと店を後にした。ダメな物はダメ! クヨクヨ引き摺らないのがモットーなのだ。
「一軒ダメなくらいでそんなに凹むなよ! 歩行者天国はあそこまであるんだぜ。店だっていっぱいあるんだからさ!」
そう。いっぱいありすぎて目移りして……結局、選べないでいるのだ、タカヤスは。
「あー、ここも服だーっ!!」
ま、大概、それが一番多い。
「出る?」
タカヤスのテンションを見て、少年が外を指差した。
「んにゃ! 店内、回る!」
彼女の為ではなく……。
「お前が何か思い出すかもしれないじゃん?」
……である。
男子が並んで店内を歩く、多少不自然でも季節が季節だ。友達同士で彼女へのプレゼントを探しに来た、くらいには見えるだろう。
「……あ……」
少し奥のマネキンの前でタカヤスが足を止めた。