天使の羽
少年の視線を辿って木の上へと自分の視線も移す。もう葉の落ちた枝の先に赤い風船。引っ掛かっている紐の部分に少年の手が伸び、しっかりとそれを掴んだ。下にいる女の子が手を叩いて跳ねている。風船を握り締めたまま、ゆっくりと降りてきた少年が最後の足ががりからピョンと飛び降り、女の子に風船を手渡す、と同時にその子の両親であろう男女が駆け寄って、少年に頭を下げた。買い物の途中、風船を手放してしまった女の子。両親は気付かずに買い物を続け、女の子は風船といなくなった両親に泣いていたのだろう。お礼を言う両親に、少年が“いえいえ”と手を振りながら恥かしそうに笑っている。
「なんだかな……」
その後も、すれ違いざまに物を落とした人にそれを拾って渡したり、落ちている空き缶をゴミ箱に捨てたり……。
「ボランティアな奴……」
なんだか目が離せなくて、そのままそっと後を追い駆ける。
歩いて行く内に、荷物が邪魔で歩道橋を上りあぐねている老人に出くわす。見ていると、何の迷いも無く、少年はその荷物に手を伸ばし老人に微笑んだ。
「やっぱりな……」
予想通りの行動にクスリと笑いが漏れる。そのまま歩道橋を渡る老人と少年。
やがて、送り届けた少年が歩道橋を駆け足で戻って来た。その袂でみていたタカヤス、慌てて階段の裏に隠れる。ストーカー紛いの行動に気が引けたのだ。
“カンカンカン”
階段を下りてくる音が聞こえる。……足音が地面に着いた。少し遠去かったらここから出て、彼女へのプレゼントを選びに戻ろう。そう思った瞬間、
「……あの……」
歩道側が人影で遮られた。びっくりして目を上げると、
「君……」
白い服の少年が、そこに、いた。
「い、いや、俺、その……」
慌てて言葉が言葉にならないタカヤス。
「……君、ボクを、知ってる?」
不意の質問に、
「えぇっ!?!?」
タカヤスが更に驚く。
「さっきからずっと見てたよね?」
気付かれていたようだ。が、そうなると知らん顔で逃げるわけにはいかない。仕方なく、タカヤスは頷いた。
「ボクの事……」
「し、知らない!」