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むろん遊園地への問い合わせたその電話で、すぐに警察にも相談をした。
最初は、夏休み中に高校生が一晩家をあけたくらいにしか考えてもらえず、係官の受け答えの口調も熱心ではなかった。
けれど、話しが進み明海が九大の付属病院の看護婦だと判るととたんに態度が改まった。
「私の母も、もう歳なんですが、入院しちょります」
「はい、遠藤っちいいます。看護婦さんにえらく手間かけちょると聞いちょります」
「ええ、やさしくすると癖んなりますから、たまにゃーきつーく云ってやってください」
「ええ、ええ、判っちょります。妹さんのことでした」
「とりあえずですが、午後の交通安全パトロールがあっち方面にまわりますから、道々確認させます」
「はい、今のところ事故・事件の連絡は入っちょりません」
「ご心配でしょうが、こちらも出来るだけのことはしますから、少し待っちょってください」
「はい、何か判ればすぐ病院へ電話いれさしてもらいます」
敏子の遺体を発見したのは、そのパトロール・カーだった。
市内から山に向かったのが14時前、「鶴ヶ峰遊園地」の手前にある古くからあるよく知られた湖を一回り巡回して、再度「鶴ヶ峰遊園地」へ向かう道を少し上がった所に大きなブレーキ跡があった。
昼食前に遠藤署員から頼まれた件がすぐに頭をよぎった。
車を降り、右手の山中の捜査をもう一人に頼み、自分は左手のがけを降りた。
がけと云っても雑木林の斜面のようなもので、空き瓶やアルミ缶に足をとられなければ、さして降りることは難しくない。
少し進んでも、何かがすべり落ちた様子はない。
「何もないな.....」と口にしようとして息を呑んだ。
目の前の枝が絡んだその根元に、体を奇妙に折り曲げた若い女性を見た。
一目で遺体だと判る程、痛ましい姿だった。
それが15時45分。
所持品がなく、身元不明のまま署に連絡を入れた。
遠藤から明海へ「妹さんらしき遺体が」と連絡が入ったのはもう夕刻だった。
再会の夜、ここまでの話しを明海はうつむき加減に、ポツポツと一つ一つ確かめるように話し続けた。
受験に重なったせいもあるが、卒業式に出なかった俺は、明海ともりょうとも有耶無耶な別れをしていた。
二人は、それぞれ新たな歩みを始めていたし、受験に失敗した俺はそのまま東京に残り翌年の受験に向かうことにした。
しかし、それからすぐに母の死、そして父の死が重なり、どちらの死に目にも俺は間に合わなかった。