umi
「敏子は死んだの」
再会した夜、
「あれからどうしてた?」
再会の決まり文句を口にした俺に、窓越しに夜更けの街を見つめながら、近況の話しの流れで明海は妹の死を語った。
明海は、高校を卒業した後、4年間看護学校へ進学し、九州大学の付属病院へ勤めた。
敏子は、姉と同じ、俺たちと同じ高校に通いながら、週末や休日のバイトに姉譲りの精を出していた。
その頃郊外の山中に作られた「鶴ヶ峰遊園地」でバイトを終えた帰り道、その事故にあったらしい。
道を外れ、別府市内へ向かって右下の雑木林に落ちた敏子が見つかったのは翌日夕刻だった。
夏休み中だったが、その日が臨時登校日だったので、宿直していた明海に学校から敏子が登校していないと連絡が入り、明海はすぐさま遊園地に電話をかけた。
遊園地では送迎バスを使い街中との通勤の利便をはかっていた。
発見された前日の夜、閉園した後の21時40分頃バス乗り場にいる敏子を園内に住む管理責任者が見ていた。
バスが出たばかりらしく、いそがしく時計と発着時刻表をながめていたらしい。
彼が次に通りかかった時にはもういなかった。
その間約10分。
次のバスは最終で、まだ来るまでには10分以上あったから誰かに送ってもらったのだろうと考えた。
山中のような場所でも、この遊園地が出来たおかげで道は整えられ、かなり遅い時間でも幾台もの車が通る。
まして今は夏だし、若い者にはかっこうのドライブコースになっていた。
閉園後もメインの遊戯マシンにはスポットが点っていて、それも彼らの人気を集めた。
今も最終のバスにむかう人たちがバス停に集まり始めており、とても山中の様相ではなかった。
明海の電話を取ったのは、ちょうどその彼だった。
昨夜の様子をかいつまんで話しながら、彼は胸の奥に妙なざわめきを覚えていた。
「それは、ご心配ですね。私はこの園の管理をしておる野村といいます。少し園の周りの様子を見てきましょう」
電話を切り、午前中の準備を終えた幾人かに言葉通り周辺の様子を見に行かせた。
自分に関わりがあるとは思わないが、あの溌剌とした客当たりのいい少女を見た者がもしかしたら自分が最後なのではと、このざわめきはそう告げてるようだった。
「ノムさーん、なんもないですよー」
20分ばかり経った頃から次々に同じ報告が帰ってきた。
そして、それは最後の一人まで同じだった。
「とりあえず良かった。これで自分の周りでは何事もない」
けれど、胸のざわめきが消えることはなかった。