東西異同
「お前らなんか最近やつれてないか?」
季節は初夏、六月の中旬頃。
「……あ?」
「……は?」
相変わらずあの寮母のおばさん達の関西弁での精神的攻撃は継続中。
いや、あの人達に攻撃してる意識や自覚なんか無いのは分かってんだけど。
正直料理も洗濯も掃除も自分で出来るから、俺のことは放っておいて欲しい。
「山手はアレか。寮のことで相当まいってるみてーだな」
「……そーだよ。悪いか」
それにしても横で机の上に覆いかぶさるようにして死んでいるコイツが、こんな状態になってるのは珍しい。
あの日から顔を合わせば声を掛け合うくらいの仲になった俺達だったが、以外にも取っている授業が結構被っていたことが分かり、今では教室でもよく一緒に座るようになってなっている。
まぁ話すコトっつっても高校ん時の話とか好きな曲の話とか、当たり障りの無いようなモンばっかだったけど。
「お前もなんかあったのかよ」
「……もーあかん……限界……」
「何が」
「家庭の味食いたい……ちゃんとした飯食いたい……」
「は?」
ワケわかんねー。コイツ自宅通学のはずだろ。
首を傾げた俺の方を机と腕の隙間から上目遣いに見上げてきた目と視線が絡む。
「……一ヶ月目」
「だから何が……」
「一人暮らし、もう一ヶ月経つんやけど……」
「一人、暮らし?」
コイツの話によると、環状家はやたらと国際派の人間が多いらしい。
祖父母は定年後にカナダへと引越し、兄貴は現在フランスの大手企業に就職中。
両親も度々海外出張に行くそうだ。
なのにコイツは旅行以外で国外へと出たことはいままで一度も無いという。
何故なら両親のどちらかが日本に残ってコイツと一緒に暮らしていたから。
「それがな、今回は親父も母さんも海外勤務になってもーたらしくて」
父親はアメリカに、母親はスイスに出張が決まってしまったとかで、「もう海都も大学生だし、一人でも大丈夫やろ」「家の事よろしく頼むで」と言い残してさっさと飛行機に乗ってそれぞれの国へと飛び立ってしまい、たった一人日本に残ったコイツは一人暮らし生活を余儀なくされた……ということらしいが。
「俺、炊事全く出来ねーもん」
「え、それどーやって毎日食ってんの」
「インスタントとかコンビニ弁当とか、あと弁当屋に買いに行ったり、最悪ファミレス行ったり……」
「この一ヶ月?毎日?」
「たりめーだろ……」
「あの出来合いのモン嫌いなお前が?」
「食うモンなかったら、しかたねーし」
「うわー」
「なに、お前料理もできねーの」
見た目可愛いくせに、と思いながら考えなしに言った言葉。
だってフツー料理ぐらい今時小学生だって出来ンだろ。家庭科で調理実習の時間だってあっただろうに。
そしたら急に起き上がったコイツに襟首掴まれて、キラキラというよりギラギラした目で詰め寄られる。
「料理、出来んのか!?」
「そ……りゃまぁ、人並みには……」
ガバッと抱きつかれて、俺の頭は一瞬フリーズする。
「頼む!お前しかおらんねん!」
「は」
「晩飯、作って!」
あまりの鬼気迫る声に、俺はうっかり首を縦に振ってしまった。