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東西異同

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それは三月の終わり頃。
寮をやめて海都の家に住むようになる日から三ヶ月前。

高校を卒業して数週間後、羽田から単身飛行機に乗って伊丹に降り立った俺はこれから数年住むことになっていた大学近くの寮へと向かっていた。
学生用の狭い部屋、半強制的なルームシェア。
まぁ一応部屋の真ん中にはクローゼットが壁代わりに設置してある構造だったが、夜中に耳を澄ませば相手の寝息が聞こえるくらいにはプライバシーもクソもないようなところだった。
どうせならどっかのアパートに一人暮らしか、せめて一人部屋が良かったのだが、俺を変に心配した母親が勝手にここの寮に申し込んでたのだから仕方が無い。
お笑い系のノリが毛嫌いするほど嫌いだった俺だが、寮なんて地方から来てるヤツらの入るようなところだし、ここならあの理解不能な関西人のノリに極力触れないでいられるだろうと、この狭い部屋に住むことに関してはなんとか目を瞑ることは出来ていた。
……なのに、問題はそこじゃなかった。
「山手くんまた門限過ぎてんで?もう大学生にもなるんやから時間の管理ぐらい自分でちゃあんと出来な!」
「……はい」
「ご飯はよ食べてや!洗いモンいっぺんにしたいから」
「……はい」
「好き嫌いしとったら一人前の男になられへんよ」
「……はい」
「山手くん!」
入寮一週間で俺は既にここで暮らしていける自信なんかこれっぽっちも、蟻の胴体なんかよりも無くなっていた。
問題は、同室のヤツでも部屋の構造でもなく、―――いわゆる『大阪のオバちゃん』という言葉が豹柄の服を着て歩いているような、寮母をしているおばさん達の存在だった。


「頭痛ぇ……」
病名、軽い鬱。そう医者に診断されてもおかしくないような精神状態。
その頃はちょうど、大学の授業も始まって、ようやく大学というものにも慣れてきた四月の終わり。
初めて海都に会ったのはそんな時だった。
「なぁ、アンタ東京人やろ?」
「は?」
寮の知り合いと大学の食堂で昼飯を食っていた俺に突然話しかけてきた男。
食堂の白い盆を両手で持った、どう見たってまだ高校生かそこらにしか見えないナリと、女かと一瞬思うような幼い顔。
光の加減で赤っぽく見える無造作に伸びた髪、デカイ目、男にしてはちょっと高めの声。
そのくせ捲り上げた袖から伸びる健康的な腕やサバサバとした態度や目つきはやけに男らしいという、変なヤツ。
おぉ環状、と声を掛けた俺の斜め左に座っていた男に「おはよ」と返してその男の横の席の椅子を引いた。
……要するに、俺の向かい席だ。
「あー、山手はまだ知らなかったっけ。コイツ、山本と同じ高校だった環状。環状、コイツは山手。お察しのとーり東京出身だけど、よく分かったな?」
「あ、やっぱ?ちわ、環状海都っス」
「……どーも。山手大地です」
「ナニそのかたっくるしい挨拶」
(俺の横に座っている)長野出身という同室の諏訪の親は転勤族だったらしく、中学時代の一年半を大阪で暮らしていて、そん時の友達が山本(俺の斜め右の男)なのだと聞いたような記憶がある。
ってことは、こいつも関西人か。
「海の都って書いて『みつ』って読むんだぜ、コイツの名前。珍しいだろ。な、みーっちゃん」
「みっちゃんゆうなアホ。しばくぞ」
今日の昼飯はカレーライスらしい。ガツガツと食い始めたコイツを俺は思わず無言で見つめる。
テレビでしか見たこと無かったけど、関西人がよく人に「アホ」って言うのってホントだったのか。
ちなみに俺がつるんでいる諏訪を始め山本や他のメンツも皆出身は関西以外だ。
意図的に関西人を避けていた結果こうなったわけだから、同い年くらいの関西人とちゃんと喋るのはコイツが初めてだった。
「そーだ。お前なんで山手が東京から来たってわかったワケ?」
「あ?なんとなく。喋り方がお前らと違って東京弁やったから」
「はァ?なんだそれ」
まぁ確かに、コイツの俺に対する第一声が「東京人か?」だしな。
つか東京弁って言い方始めて聞いたんだが。
「後、山本から話聞いたことあった気ィする」
「言ってたんだ?」
「あー言った気もするなー」
「したら諏訪ン隣になんか雰囲気的に東京な感じのヤツ座ってっし、この人かなーって」
「お前がよく覚えてたな」
「いや忘れてた。せやけど見た時思い出した」
雰囲気東京っぽいってなんだ。
小さく眉を寄せた瞬間、急にカレー食ってたコイツが顔を上げて俺を見たもんだから驚いて目を丸くする。
まさか、今の無意識に口に出てたか?
「山手、大地」
「……は」
突然真顔でフルネームで呼ばれて、顔には出さなかったがちょっとドキリとした。
そしたら急に、俺に向かってやたら可愛く笑って。
「よろしくなー」
なんて言いやがるから。
「……おー」
関西人だけど、こういうヤツもいるのか。
いろんなイミで環状海都という人間は、今までの俺の人生で出会ったことのないタイプの人間だった。




作品名:東西異同 作家名:矢吹