シテン
人と比べるのは御門違いだと分かっているが、気持ちばかりが焦る。そんな僕の懸念をよそに、しばしの沈黙が車内に訪れたが、それもまた嫌な静けさとは違って心地よかった。サクラさんのまとっている雰囲気が、車内の空気を浄化していた。
「次の交差点でいいんだよね?」
サクラさんの声とウインカーの点滅音が、その沈黙を破った。
「はい。二つ目の角、あそこのカーブミラーがある所です。そこを右に入った、右側の二軒目です」
「これ? ここでいいの?」
サクラさんが整った爪で窓ガラスをコツコツと突いた。スムーズに車が停止する。
「はい、ありがとうございました。じゃあ、相沢さん。また学校で」
「はい、また学校で」
走って玄関先の屋根の下に滑り込む。あっけらかんと車を降りてきてしまったことに、ちょっと後悔しながら振り返ると、二人はハモるように同じリズムを刻んで手を振っていた。湿った学ランから柑橘類の香りがした。