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蛇の目

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「なんでもな、日照りで農作物が育たんと、皆飢えてな。
見て聞いたわけじゃないが、年寄りをな、神様に捧げて喰っちまった。
なんてハナシも聞いた、と。
権造さんも知らずにぃ、そりを口にしたかぁわからん、と。
そんな土地だったんだ、ここは。」

「食うや食わずの日々で。雑草や、野鼠まで喰った、と。
川に魚取りに下って行っても、滑って落ちて死んだもんもおったって。
ある年、スペインの風邪が来て、男ん兄弟達ゃ皆死んでしまった。
ずっと、この土地で、百姓しながら。
40 過ぎるまで、来る日も来る日も。
来る年も来る年も。
女房も娶らず。
ここん土にしがみついてぇ。
米を作り続けて。
戦争が始まると軍隊がなけなしの米を持って行った。」

「その戦争も末期になると、
中年だった権造さんにも召集令状が来て。
ここがあんまり酷い土地だったかん、
権造さんはむしろ喜んで軍隊に行った、と。
軍隊に入れば、メシが喰えるから。」

「それまでぇ、他にしたことも無いからぁ、野良仕事なぁ。
軍隊では働きもんとして重宝がられた、と。
軍隊が気にいって休みにも帰らんと・・帰って来たくなかった。」
作品名:蛇の目 作家名:平岩隆