蛇の目
それでは、第一日目のインタビューを始めさせていただきます。
まず、生まれてから、兵隊に行かれるまでですが・・。
息子の幸造が、父の言葉を伝える。
「本当の誕生日はぁ、誰ん教えてくれんが、明治34 年4 月29 日。
役場の書類じゃ、そうなってるら。あながち間違っておらんと思う、と。」
明治34 年というと、1901 年ですか。子供の頃のことなどお話ください。
「ここはぁ昔ぃから、貧しい土地でな、百姓するしかなかった。
見て解る通り、三方を山に囲まれてさ、もう一方は深い谷だからぁ。
夏は茹だるように暑いが、冬は二階まで雪が積もってな。
長くて寒い冬はさ。百姓はすること決まってっぺ。」
はい?
「子作りだ、子作りぃ。布団敷いておっかぁにまたがってよ。
一晩に二度も三度もがんばんだよ。朝が来てもよ雪が積もって
暗いかんよ。やっぱぃ、がんばっぺ。火照ったカラダァ雪に晒して
冷やしてな、雪下ろしして。またぁ日がな、おっかぁと励むんよ。」
はぁ・・
「おっかぁの腹ンなかにさ、とつきとうかぁ、いてさ。
だからこの辺のヤツはよ。皆ぁ冬場に生まれてるさ。
権造さんも、ホントは寒い冬に生まれた。10 人兄弟の末っ子で。
役場に行ったのが雪が解けたアト・・ってことさ。」
末息子さんだと、大変可愛がられたでしょうね・・
「とんでもね。百姓の末息子は、間引かれたもんさ。
この先の谷から、昔はぁ、はぁ、生まれたばっかの赤子を
川に投げ込んでおったっぺ。おみななら奉公先も考えようだが
こんな田舎じゃ、それもなかった。
よく殺されなかったかと思う、ですと。」