蛇の目
「ガダルカナル島でのジャングルで。地獄を見た。と。」
ムニャムニャ話す、山本権造は、最初の嗚咽をあげた。
息子の幸造は、父親をなだめすかし、落ち着かせた。
女中を呼び、茶のおかわりが振舞われた。
「弾薬も食料も無く、敵に怯えて、ジャングルに殺されてくんだ、と。
部隊で生き残った二人だけで逃げてく最中に、
でっけぇ大蛇に襲われてぇ
もう片方が、大蛇に飲まれていくのを、
隠れて見ておったってぇ。」
身の毛が総立ちで、逃げるなんて出来んで。
人間ひとり飲み込んだ大蛇と目が会ぅた瞬間、ダメだ、覚悟決めた、と。」
「そんときぃ、思ぅたってぇ。ヘビさまぁ、助けてくれたって。」
ヘビさま?
「あぁ、ここん部落に昔から奉ってある神様さ、白ヘビさまよ。」
山本権造は、涙を流し、手を合わせた。
深く、頭をもたげると、元の姿勢に戻った。
「きっと、白ヘビさまぁ、護ってくれたんだよぉ。
権造さんをじっと睨みつけて、でも大蛇はジャングルに消えていった、と。」
幸造は、をひをひと泣き崩れる父権造の肩を抱いて。
「今日は、ここまで。」
そう告げると、息子の幸造は、玄関に追い立てた。