一歩でも遠くへ
「はいお待たせ」
「お、うまそうじゃん。いただきます」
兄貴はきっちりと頭を下げ、凄まじい勢いで食べ始めた。いつもこんな感じだ。
大工たちがデカクなるのがよくわかる。筋肉はしっかりしているがそんなに身体が大きいわけでもないのに、一体どこに消えているんだろうと思うが、もうこれにも慣れたものだ。
「おい、もうそろそろお前がいつも聴いてる番組がかかるんじゃねぇか?」
「え?ああ、もうそんな時間か」
いつもより早めの夕飯を終える頃、兄が言うのに驚いて時計を見た。ちょうど普段は兄が帰ってくる時間、この時間には国営ラジオが唯一放送している音楽番組が始まるのだ。
日々愛国論が唱えられるラジオから、唯一心休まる音が流れ出す時間だ。
――しかし、この瞬間から全ては変わってしまうのだ。
この幸福が、これからもずっと続くと思い込んでいた、その足場が脆くも崩れ去るのだ。
『全国民に告ぐ。4ヵ月後の今日より、わが国はA国との戦争を開始する。1世帯から男子を一人出兵せよ』