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一歩でも遠くへ

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第1章 幸せの崩れる音



 今でも覚えている。よく晴れた日だった。
 元来乾燥している事の方が多い土地柄だったが、それでもいつにも増して空が青く見えたことを覚えている。

「あ、兄貴お帰り」
「おう、ただいま」

 内職を中断し夕飯を作っていると、仕事に一段落ついたのか、兄が早くに帰ってきた。

「今日は早いね。仕事に一段落ついたの?」
「まぁついたって言えばついたかな。親方が今日は何か調子が出ないから明日するぞって無理矢理切り上げた」
「ははっ、親方らしいね。じゃあ明日のために早めに寝る?」
「そーする」

 疲れて帰ってきた兄に、とりあえず時間稼ぎにサラダを差し出す。兄も俺がまだ料理中というのがわかっているのか、催促することなくサラダに手を出していた。


 俺と兄貴は、血は全く繋がっていない。
 俺達の暮らすこの国は、つい10年ほど前まで紛争が絶えなかった。
 今この国を動かせているのはその紛争に軍事力で勝利した勢力で、ほとんどの国民は愛国心なんてこれっぽっちも持っちゃいない。

 その戦乱の中俺は生まれたが、両親はどっかの兵士に殺された。どこのなんて関係ない。まぁとにかく一人になったのだ。 
 その直後に紛争は終焉。何だよおい俺の親は無駄死にか。後ちょっと早く終われよ。
 とかそんな事ラジオ放送を聴きながら思ったけど、そんな事考えてる余裕なんかホントはない状況だった。

 食べる物が何もない。死に物狂いで懸命に生きてたけど、逆に身体の弱かった俺がまだ生きていたことが奇跡的。誰も何も恵んでくれないし、8つの、しかも身体の弱いガキなんて働き手にもならない。
 あ、やっべ俺このまま死ぬのかな、なんてもう動かない、動く気力のない自分のほっそい足を見つめていた。
 楽に一瞬で、眠るように死ねたらなぁとかも考えた。この土地柄では凍死も望めない。

 そんな時、急に自分に当たってたギラギラする光が翳って、そこに誰かが来たことを知らせた。
 見上げてみれば、そこには粉っぽいパンを黙々と食ってる、俺よりは年上のガキ。

 今なら遠慮したくなるようなまずそうなパンだったが、もうこれ以上空く事はないだろうという限界にまで達していた俺は、初対面の相手に寄こせって言ってた。
 自分でも思ってもみなかったほどにその声は掠れてて、体力が残ってたら自分でも笑ってしまいそうな声だった。

 するとそいつはフフンといった感じに笑い、俺から奪えたらやってやってもいいぜ、とか言ってきた。

 冗談言うんじゃねぇよ、こっちは動くのもツライってのに、平然と立ってるお前からなんて無理だろ、とかフラフラする頭で考えながらも、意外に生への欲求が強かったのか、俺は立ち上がってパンに手を伸ばしていた。ごく簡単に避けられて地面と衝突したわけだが。
 パンは欲しかったし自分の体が動いたことにも驚きだったけど、さすがにもうそれ以上身体はいうことを聞いてくれなかった。そいつはそんな俺を見てクックッて笑うし、ああ、もうやだなぁとか思ってたら、襟首掴まれて引き起こされた。

 今度は何だと思って目を開けたら、急に何かが口に突っ込まれた。窒息死させる気かと思ったけど、舌に感じるのは小麦味。目の前のヤツが食ってたはずの粉っぽいパンだった。
 口を動かすことも忘れてポカンとそいつを見ると、満足そうに笑って心意気は合格、とか何とか言いやがった。

 何かよくわからないままにそのままそいつに拾われて、そいつが作ったらしい木屑とトタンでできた犬小屋ちょっと大きめに住み着くようになった。
 捨てられていた物を修理して売ったり、たまにスリや盗みをして生活していた。
 割とすぐそいつのことをなんとなく兄と呼び始め、最初は嫌がっていたがそのうち慣れたらしく何も言い返してこなくなったので、そのままそいつを兄貴と呼ぶようになった。


 紛争が終わり、二人でそんな生活を始めて約2年、(勝手に木材とトタンで小屋を作って)移り住んだ町で同じような生活をしていたが、机を修理している途中いい木材がなくなった。兄に助けを求めようにもちょうどその場にはおらず、助言は期待できなかった。

 それまで盗んだことのあるものといえば、店先に並んだ食べ物ばかりだ。しかし俺は早く修理を済ませたくて、こっそりどっかから木材を調達しようと考えた。
 そして目をつけたのが建築現場。そこなら机の脚くらい軽く補える木材があるだろうと思い、ちょっくら拝借しようとした。

 しかし悲しいかな、最近は景気も良くなり始め、また兄がなにやら出張修理屋や、その合間の靴磨きやなんだで盗みやスリをする必要がなくなり腕が鈍ったのか、はてはただ建築現場ゆえ周りに関係者以外おらずガキの姿が目立ったのか、俺は木材を持って逃げようとしたところを大工どもに捕まった。
 一度盗みを働いて捕まり殴り殺されかけた経験があり、俺は大工たちのぶっとい腕で殴り殺されるんだと本気で思った。

 情けなくも怖くて目を瞑っていたので俺は知らないが、そこにちょうど出張修理屋を終えた兄が通りがかり、俺を捕まえていた大工の腕を折らんばかりの勢いで突っ込んできたらしい。
 実際俺のまだ握っていた、余り物だったらしく机や椅子の脚にしかならないくらいの太さといえど、木材が見事にへし折れていた(まさか兄の仕業とは思わなかったが)。

 その様子に驚いた大工たちが状況を説明し、俺もそれを認めたため、兄は大工たちに必死に謝り倒し、何とか事なきを得た。
 その後小屋で夜までこっ酷く叱られたが。              


 次の日、兄はまた出張修理の巡業に出かけ、俺は兄が謝り倒すついでに手に入れた(兄は口も演技も上手い)へし折れた木材を使い、机を完成させていた。

 そこへ見た目大工、絶対上の立場と思われる貫禄のある大男が現れた。

 え、いまさら絞められるの?とか昨日の今日で思っていたところに、兄はいないのか?ときたもんだ。助けが無いうちにボコられると思った矢先、ラジオを抱えて兄が帰ってきた。なんてピッタリ、計ったようなタイミング。
 昨日の今日ということもあり、明らかに構えた兄にその大男は実にあっさりと、自分の所で働けば給金と住む部屋を与えてやると言ったのだ。

 どうやら大男は部下たちから俺達の事を聞き、また巷で有名になり始めていた兄の何でも修理屋としての腕を認めて、御大自ら勧誘に来たのだと言った。
 最初は半信半疑だったものの、部屋、というより家を提供し、それでいて兄を雇い体の弱い俺のために内職を与えてくれたりと色々、ホントに色々とお世話になった。


 そんなこんなで10年生きてきた。18になり体も強くなってきたがまだ時々体調を崩すし、内職のお陰か器用になった手先の器用さを買われてちょっと良い目の内職の仕事が出てきたので俺は内職を続け、兄は腕前を買われて拾ってくれた親方の元でメキメキと腕を上げている。

作品名:一歩でも遠くへ 作家名:papama