2+1=1
02
その日の夜、買ったばかりの服に身を包み泉美は男性とバーにいた。
「夏の新作?」
男性が泉美に聞く。左手の薬指には泉美とおそろいのリング。細かい美しい彫刻を施したそのリングはジュエリーデザイナーであるこの男性の作品であり、彼にしか造ることができないものだった。
男性は泉美の婚約者だ。
「うん。いつもの店で今日買ったの」
男性はため息をつくと泉美の手に自分の手を重ねた。
「できれば...あの店は避けてほしいんだけど...」
こう言われるのはわかっていたが、また一から店を選び担当を決め...などとする時間も泉美にはなかった。休みもままならない泉美は、佐川に任せれば大丈夫という信頼関係にあるあの店が気に入っている。
...ある一点を除けば。
「けど、こうなったのも全部あなたの責任でしょ?あたしがあの店を避ける理由はない」
久々に会えたのに気分が悪くなる。
帰り道、自分のマンションに寄らないかという彼の言葉を断り、泉美はまっすぐ自宅へと戻った。