2+1=1
01
忙しい仕事の久々の休み、通いなれた店に向かう。
6月も後半...そろそろ夏の新作が出ているはず...。
泉美は銀行で十分すぎるほどの金額を引き出しショップへ向かうエスカレーターに乗る。
泉美の思った通り、ショップには入荷したばかりの夏服が並んでいた。
「あら?堀川さん、お久しぶりですね」
ニコニコしながら泉美に話しかけてきたのは担当の佐川。この店のマネージャーだ。
「うん、最近忙しくて。やっとお休みもらったから来たの」
他で接客していたのにも関わらず、そばにいたスタッフに代わってもらい佐川は泉美についた。
泉美はそれだけ店にとっては上客だった。
店に向かえば必ず上から下までのコーデを2着は買う。多い時には諭吉札が10枚以上レジのトレイに置かれるときもあった。普通なら一度に出せない金額も惜しみなく支払う。かといって泉美が夜の仕事というわけでもない。
泉美はネイリスト。サロンの仕事もこなしながら雑誌やTVのモデルも担当している売れっ子だ。
そんなわけで同じ年の子よりギャラもいい。
服にこだわるのもいろいろな業界へ顔を出すために必要なことだった。
「とりあえず今日は夏服で着まわしできるのがいいなぁ」
佐川が泉美の好みに合う服を手際よく選んでいく。佐川が担当するようになってからもう3年。泉美の好みはすべて把握している。
佐川が選んでいる間、泉美は夏服が並べられた店内をフラフラしていた。
「堀川さんこんにちは!」
この店に配属されて1年になる佐々木が声をかけてきた。小柄でちょっと媚びた感じが特徴だった。
「佐々木さん、お久しぶり...」
泉美は佐々木に気づかれないように自分の手元を隠した。
佐々木にだけは自分の手元を見られたくなかった。
「堀川さんに似合いそうなアクセ入ったんですよ!----これなんかどうですか?」
佐々木が進めたのは小さなダイアの入ったロザリオ。泉美の好みのものだった。
しかし受け取るにはこの手を佐々木の前に出さなければならない...。それだけは絶対に避けたい...。
----佐川さん、早く!
「堀川さん。お洋服こんな感じでどうですか?」
タイミング良く佐川が泉美に声をかけた。
「あ...ごめん、佐々木さん。また今度見せてね」
泉美は素早く佐々木のもとを離れ佐川の選ぶ服を確認に行った。
----危なかった...。
佐川の選んだ服をすべて受け取り会計を済ませると、足早に店を後にした。