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ラベンダー
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novelistID. 16841
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魔術師 浅野俊介2

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浅野はグラスを拭きながら思った。今日は客が少なくて助かった。
マジックを見せて欲しいということも言われない。

(マジックに飽きてきたな…)

浅野はそう思った。この2週間連続でやらされていたため、そろそろかなとは思っていたが…。
圭一には帰ってもらった。20歳とはいえ、毎晩24時まで働かせるのは良くないだろうと思ったからだ。
本人は心配そうにしていたが、帰っていった。

……

24時になった。
浅野は後片付けに入った。今日は本当に楽だった。少しさびしい気もするが、これくらいがちょうどいい様な気もする。

携帯が鳴った。
圭一の父、明良(あきら)からだった。

「はい?…え!?…いえ…10時には帰ってもらったんですが…!」

浅野の携帯を持つ手が震えた。

……

浅野には予知能力の類はない。それがあれば、圭一が何か危険な事に会った時わかっただろうに…と、浅野はタクシーの中で唇を噛んだ。
圭一は姿を消していた。何も知らない明良達は、プロダクションの屋上から1階まで探し回り、圭一がよく行く場所も探したが、いないという。
圭一の飼い猫「キャトル」もいなかった。

(キャトルの予知能力が利かなかったとしたら、やっぱりあいつが…しかし…どこだ?)

タクシーの運転手が困ったように言った。

「お客さん…このまままっすぐ走ってたらいいんですかね?」
「うん。とにかくまっすぐ走ってくれ。」

浅野が言った。

すると頭の中に声が聞こえた。

『ここだよ。悪魔とファミリアは…』

「!!」

浅野は辺りを見渡した。が、はっとして上を見た。
高いビルの屋上に、圭一がキャトルを抱いている様子で、こちらに背を向けて立っている。それも少しでも揺らいだら落ちるような場所だった。

「止めてくれ!!」

浅野が突然タクシーの運転手に言った。
そして財布ごと運転手に渡し、外へ出た。

「お客さん!困ります!」

運転手が窓を開けてそう言ったが、浅野は道路を渡って向こう側へ走った。

……

浅野はビルの裏手に行き、誰も周りにいないことを確認すると、額に人差し指を当て念じた。

ビルの屋上に移動したことを感じ、辺りを見渡した。風が強い。

「圭一君!!」

見渡したビルの端に圭一の姿があった。立ったまま眠っているように目を閉じている。圭一の手に抱かれたキャトルの体からオーラのような帯が見える。圭一を守るように帯は圭一の体に巻きついていた。

「おっと、それ以上は寄るなよ。」

同僚の声がして、姿を現した。

「!!天野…!」
「全く懲りない奴だな…。マジックをやめる約束だったじゃないか。」
「…約束なんてした覚えはないが。」

浅野が言った。天野が目を見開いた。

「先生と約束したはずだろう!?」
「さぁね。約束したのは、もう師匠のところへは戻らないということだけだったと思うが…」
「浅野…!」
「どうしてお前は、そこまで僕にこだわる!…ほっといてくれ!」
「…なんでいつもお前なんだよ…」
「!?」
「俺は…お前と同じ能力があるのに…どうしていつも影にいなきゃならないんだ!!」

浅野はちらと圭一を見た。

(引き寄せるより落とした方が助けやすいか…)

浅野はそう思うと、天野に言った。

「やっかみなのね。見苦しい奴。」
「なんだと!?」
「他に何があるよ?…そんなやっかみで人の命を奪うようなことする奴だから、お前はいつまでも影モノなんだよ!」

浅野の言葉に天野が激高した。そして振り返り、圭一に向かって手をかざした。
圭一の体がぐらりと揺れ、背中からビルから落ちた。

「キャトル!!起こせ!」

浅野が叫んだ。

キャトルが「ギャーッ!」と鳴いた声で、圭一が目を覚ました。…が、覚ましたのはマッドエンジェルだった。
圭一の開いた目が青く光っている。圭一の落ちていくスピードが遅くなった。浅野が下を覗き込むようにして飛び降りた。

「!!」

天野が驚いて、ビルの下を覗き込んだ。
浅野の背にオオワシのような白い羽が音を立てて広がった。浅野は圭一の体を横抱きにするように受け、ビルの上まで運んだ。

浅野は屋上に圭一を横たわらせた。圭一の青く光った目がおさまった。だが圭一は目を覚まさない。キャトルが圭一の胸から降り、心配そうに頬ずりしている。

「…お前…何者なんだ?」

天野が言った。

「さあね。天使かもしれないし、悪魔かもしれない。」

浅野が苦笑しながら言った。羽は消えている。

「天野」

浅野が天野に近づきながら言った。天野は少しおびえたように後ろに下がった。

「俺の力の邪魔をすることは構わない。だが、罪のない周囲にまで手を出すのはやめてくれ。…たまたま圭一君に悪魔がついていたからこれですんだが、もし圭一君がこのまま死んでいたら…お前は、この先もっとひどい罰を受けることになる。」
「!!」
「…お前が…今まで何をしてきたか…俺は知ってる。俺は過去は見通せるからな。…お前がいつまでも影にいなきゃならないのは、お前の過去が原因だ。…その原因となったのは何か…自分でわかっているな?」
「……」

天野は涙をこぼしてうなずいた。

「過去は変えることはできない。…だが、お前のこれからの行動によって、未来を変えることはできる。俺には未来が見えないからわからないが…。今までどおりのことを続けていたら、お前はますます奈落に落ちて行くだけだぞ。」

天野は涙を流しながら、黙っていた。

……

「圭一君!」

瞬間移動で圭一とキャトルを連れてビルの下に降りた浅野は、まだ眠っている圭一の体を揺らした。
天野の力で意識を失わされ、マッドエンジェルにとりつかれた後である。正直普通の人間なら、かなり体力を消耗しているはずである。圭一が目を覚まさないのも当然だった。
キャトルが心配そうに圭一の頭の周りをうろうろしている。

「…どうしようか…あっキャトル、耳を舐めてやれ。」

浅野がそう言うと、キャトルが言う通り圭一の耳を舐めた。

「わっ!!何っ!?」

圭一が飛び起きた。浅野が笑った。

「大丈夫かい?圭一君。」
「え?あれ?僕…」

圭一がきょろきょろしている。

「ごめんよ。俺のせいで君を危険な目に遭わせてしまったんだ。」

キャトルが唸った。

「はい!ごめんなさい!」

浅野がキャトルに言った。それを見た圭一が笑った。

「同僚の人だったんですか?やっぱり…」
「うん。でももう大丈夫だよ。反省してたから。」
「そうですか…良かった…」
「キャトルが君をずっと守っていたよ。」

圭一が立ち上がって、キャトルを抱き上げた。

「ありがとう…キャトル…大好きだよ。」

キャトルがうれしそうに「にゃあ」と鳴いた。

その時、タクシーが走ってきて、浅野達の傍に止まった。

「よかったー!お客さん、まだここにいたんですか!」
「あ、さっきの運転手さん?」
「財布ごと置いて行かれていなくなるから、…交番に届けようかどうしようか迷って、一旦走ってしまったんですけど、戻ってきてよかったです。」
「…それはどうも…気を遣わせちゃって…ついでにまた乗せてもらえますかね。」
「もちろん!どうぞ!」

運転手がドアを開けてくれた。
作品名:魔術師 浅野俊介2 作家名:ラベンダー