魔術師 浅野俊介2
「…猫もOK?」
「もちろんいいですよ。」
浅野とキャトルを抱いた圭一はほっとしたように微笑んで、タクシーに乗った。
……
「キャトルはファミリアか?」
翌日、浅野とキャトルは非常階段にいた。
キャトルは今日も器用に手摺りにすわっている。
「にゃあ?」
「本猫もわからないわけね。」
浅野が笑って言った。「ファミリア」とは「使い魔」という意味で、位の高い悪魔の従僕であることを指す。
天野は、圭一に悪魔がとりついているのを感じたため、一緒にいたキャトルを「ファミリア(使い魔)」だと思ったのだろう。
「でも、圭一君が意識を失ったままビルの端に立っていた時…お前の何かのオーラが圭一君を包んでいたように見えたよ。…何をやった?」
キャトルが首を傾げた。(本当に傾げた。)
そして「にゃあ」と言った。
「心配してただけ?…そうか…やっぱりお前にも何かの力があるのかもな。」
キャトルがうなずいた…わけはなく「にゃあ」と鳴いた。
そして、浅野に向かってもう1度「にゃあ」と鳴いた。
「ん?天野?…ん…あいつね、マジックのアシスタントに手を出したまではまだましだったんだが、振られて逆上してさ…自分の力を使って、その子が一生男性に興味を持てなくしたんだ。」
「にゃあ?」
「俺にはできないけど、奴にはできたんだな。しかしもうその力も消えていると思うよ。…実は…俺、あいつにもっともらしく「お前の過去のせいで、日の目が見れない」って言ったけどさ…実際はどうかわからないんだ。」
「にゃ!?」
「だって…そう言わなきゃ、あいつ自分の性格に気がつかないじゃないか。自分が振られたのもアシスタントが悪い。俺の事もそうだ。きっとあいつは俺が師匠の傍からいなくなったら、今度は自分が日の目見れると思ってたんだろうな。自分は悪くない、あいつが悪いから…とか、あいつがいなけりゃ…とかそんなことばかり思ってたら、見れる日の目も見れないよ。」
浅野がそう言って、キャトルを見た。
キャトルが「にゃあ」と鳴いた。
「ん?ちょっとは見直してくれた?」
「にゃあ」
「それは良かった。」
浅野はキャトルを抱き上げた。
「さ、愛するパパのところへ行こう。きっと今頃探してるよ。」
「にゃあ!」
キャトルがそう鳴くと、浅野の腕から飛び降りて走って行った。
浅野は苦笑しながら、ゆっくり階段を下りた。
(終)