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ラベンダー
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novelistID. 16841
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魔術師 浅野俊介

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圭一の声がそう言うと、浅野は人差し指を自分の顔の前で揺らして、その場にしゃがみ、床を強く打った。すると地響きとともに、水が吸い込まれていた場所から再び吹きあがってきた。水柱がランダムにステージの周りに吹きあがる。すると吹きあがった水の塊がイルカの形になり、浅野のいるステージの周囲を飛び跳ねるようにして回った。観客が拍手をしながらも唖然と口を開いているのが見える。
…相澤プロダクションもお金をかけたな…という風にも見えるが。
浅野が両手を下に向け振りおろすと、水のイルカたちが空中で弾けて池に落ち、水は再びステージの周りに湛えられた。

「水が戻ってよかったです!あのまま流れちゃったら、水道代ばかになりませんからね。」

圭一の声に観客が笑ったが、まだどよめきも起こっている。

「次は、火のイリュージョンです。皆さまには熱さは感じさせない程度の炎ですが、近寄らないようにお願いいたします。」

浅野がステージの上で念を送るように、額の前に人差し指を立てた。浅野の体に力が入ると同時に、今度は火柱が池を包んだ。
観客がどよめいている。
ごおっという炎の音とともに、火が池を包んでいる。

「浅野さん?…大丈夫ですか?火が浅野さんに向かってますよ!」

圭一の声に観客の悲鳴がした。

「浅野さん!!」

圭一の叫びとともに、浅野の姿が炎に吸い込まれていった。

「!?浅野さん!!」

驚いたように圭一が炎に入っていった。
これには、相澤と明良も驚いて、思わず観客席の下にあった控室から飛び出した。

「圭一!!」

明良が思わず呼びかけたが、炎の勢いがすごい。

「…熱いぞ。…映像じゃないのか?」

相澤が言った。明良が驚いて炎を見上げた。

「圭一!!」

明良が炎に飛び込もうとしたが、相澤があわてて抱きとめた。

……

炎は池の上にも広がっていた。一番高い場所から見ている観客からも、ステージが炎で見えなくなっていた。
観客が騒ぎ出した。圭一の声がしないので、本当なのか、仕掛けなのかわからない。

「皆さん、ここここ!」

圭一が手を振ると、前に座っていた観客が驚きの声を上げた。
圭一と浅野は東の観客席の最上部にいたのだ。
炎の中にいたはずの2人がいつの間にか観客の最上部に移動していた。

「どうなることかと思いましたが、浅野さんのおかげで助かりました!…お客様には何もなかったですか?」

圭一が階段を降りながら、そう言うと拍手が起こった。
浅野も圭一の後ろから降りてきている。

「よかったです。こっちは死にかけましたけど。」

その圭一の言葉に観客から笑いが起こった。

浅野が両手を広げると、炎は池の両端にカーテンが開くように移動した。そして浅野が両方の指を鳴らしたと同時に火は消えた。 浅野は今度は両手を振り上げた。すると池の周りに順番に水柱が噴き上った。
一番前の観客があわててカバーを広げ、観客から歓声が起こる。
水のイルカが、池の中央から3頭飛び上がり、それぞれ池の中心へ落ちていく。
池の周りを歩きながら、圭一が言った。

「今日は短いショーでしたが、お楽しみいただけましたでしょうか?」

拍手が起こった。

「さて、ここで皆さまに浅野さんからプレゼントです。今日、会場にお入りになる前にチケットのような紙をお渡ししていると思います。そのチケットを出してもらえますか?」
観客達はざわざわとしながら、かばんやポケットからチケットを取り出している。

チケットには、「浅野俊介イリュージョンショー入場券」としか印字されていない。

「そのチケットを今、ステージにいる浅野さんに向けて下さい。」

観客が驚いてステージを見ると、いつの間にか浅野がステージの中央に立っていた。
観客達は訳もわからず、チケットを浅野に向けてかざす。観客の中には、面倒なのかかざさない人もいるが…。

「東から順番に、浅野さんが投げキッスをします!そのキスを受けられたと感じたら、チケットを見て下さい。素敵な文字が入っていますよ!」

浅野が東の観客席から順番に両手で投げキッスをした。
受けた後の観客がチケットを見ると「LOVE」という文字が、赤い判を押したように浮き上がっている。
観客から悲鳴が上がり始めた。
チケットをかざさなかった観客達が慌ててチケットを取り出したが、その人にはない。

「浅野さんの愛を受けられましたでしょうか!!そのLOVEという文字が入った方は、そのチケットを次のショーまで大切に持っていて下さい!次回からは有料ですが、そのチケットを持った方のみ、次回も無料にさせていただきます!」

観客から悲鳴が上がった。チケットに「LOVE」の文字が入らなかった客が悔しそうにしている姿があった。

「…ではまた、次のショーでお会いしましょう!ありがとうございました!」

その声に拍手が起こった。浅野が観客を見渡しながら手を振っている。
観客達が浅野にそれぞれ手を振った。
そして拍手と歓声の中、ショーは終わった。

……

「どうなることかと思った…」
プロダクションの社長室に戻った相澤と明良が並んで疲れ切ったようにうなだれている。
前のソファーには、浅野と圭一が申し訳なさそうに並んで座っていた。

「あの炎が熱を持つ事があるなら、そう言ってくれよ。…本当にお前達が死んだかとおもったぞ。」
「すいません…。」

浅野が頭を下げて言った。
圭一が慌てて言った。

「僕にはちゃんと説明して下さっていたんです。」
「あれは演出だったのか?お前が飛び込むのは?」
「…はっはい。もちろんです。」

圭一が少し動揺したように見えたが、明良はほっとしたようにうなずいた。

「…ならいいんだが…。今後はシナリオも、社長と私に見せるようにしてくれ。」
「はい。」

浅野が再び頭を下げた。

……

「圭一君…。ありがとう。…君が飛び込んでくれなければ、私はだめだったかもしれない。」

食堂で普段着に戻った浅野が、隣でコーヒーを飲む圭一に言った。

「いえ…。炎が熱を持っていたから…僕もとっさに入ってしまったんです。その後になって、足手まといになるかもしれないって気付いて…。」
「いや、君が来なかったら…あの映像の暴走は止められなかった。思いっきり構成が変わってしまったけど…。終わりよければすべてよしとしよう…」
「はい。」

圭一が微笑んで、コーヒーを一口飲んだ。


浅野が炎に入った途端、炎は熱を持った。そして、それを感じた圭一が飛び込んだのだった。
1分どころではない。浅野と同じように圭一の体にもずっと炎がからみついていた。
浅野は圭一の体に覆いかぶさり、瞬間移動を試みたが、炎の熱で体の自由が利かなかった。 するとしばらくして圭一の目が青く光り、体が青い炎に包まれているのが見えた。

(悪魔が守ってる…!)

浅野がそう思ったとたん、青い炎が自分にも絡まりはじめた。すると瞬間移動できた…というわけである。
つまり浅野が圭一を守った訳でなく、圭一の力が浅野に手を貸したのだ。

「…浅野さん…」

浅野はその圭一の声に、我に返った。

「ん?なんだい?圭一君。」
作品名:魔術師 浅野俊介 作家名:ラベンダー