魔術師 浅野俊介
「…浅野さん…マジシャンって言ってるけど…本当はちゃんとした力を持っていらっしゃるんですよね?」
「!!」
浅野は黙り込んだ。しかし、ごまかせるとは思っていない。
「…君を連れて瞬間移動をした時、まずいとは思ったけど…君を助けるにはああするしかなかったんだ。」
「どうして黙ってたんですか?…僕は、気にしないのに…」
浅野は首を振った。
「僕は物ごころついた頃から、この力のために周りから気味悪がられてね…。この力を隠す癖がついているんだ。」
「…僕も…持っているみたいだから…」
「うん。君には悪魔がついている。」
「悪魔!?」
「悪魔と言っても、堕天使といってね。元々は天使だったんだ。…何か神の怒りに触れたんだろう。」
「…そうですか…。マッドエンジェルっていうあだ名も間違っていなかったんだ。」
「マッドエンジェル(地獄の天使)?…うまいネーミングだな。」
圭一が苦笑するように笑った。「いつの間にかそう呼ばれていました。僕にはわからないけど、マッドエンジェルが降臨すると、僕の目が青く光るんだそうです。そして思わぬ力が出てしまう…。」
「さっきも降臨してたよ。」
「!!」
「炎に包まれた時にね。その悪魔は君を守ろうとしたんだろう。そして私も守ってくれた。」
「…それなら良かった。」
「悪魔にしては、分別のある奴のようだから、心配することないんじゃないか?」
「ええ…。」
「僕の力の事は、これからも内緒にしてくれるかい?」
「…わかりました。」
圭一がうなずいた。
浅野が微笑んで圭一に言った。
「それからもう1つ…いいことを教えてやろう。」
「?なんですか?」
「キャトル。」
浅野がそう言って指を鳴らすと、キャトルが圭一の前に瞬間移動して現れた。
「わっ!」
「にゃぁ」
「だっだめですよ!食堂にキャトル入れちゃ!」
「あ、そうか。キャトル後でな。」
「にゃぁ」
また浅野が指をならした。キャトルが消えた。
「…キャトルが何か…?」
「…君の子どもだよ。」
「!?…え?」
「キャトルは、君の子どもとして産まれるはずだった魂なんだ。」
「…もしかして…」
「…そう…過去を勝手に覗いて悪いが、君は君の意思に反して、自分の子どもを死なせてしまった事があるよね。」
「はい」
「キャトルは…その死んだ子だ。」
「!!」
圭一の目に涙が浮かんだ。
「君があんまり悲しむから、キャトルは猫として産まれてきた。猫の命は短いが、それでも君と一緒にいたかったんだよ。」
「…キャトルが…」
「だから、これからもできるだけ一緒にいてやってよ。」
「はい!」
圭一が立ち上がった。
「早速キャトルのところに行くのか?」
「はい!」
「今は外だ。非常階段のところにいる。」
「…ありがとう!浅野さん!」
「ん…また明日ね。」
「はい!また明日!」
圭一は浅野に頭を下げると、コーヒーカップをカウンターに戻し、走って食堂を出て行った。
……
「キャトル!!」
圭一が暗くなった非常階段を上がりながら叫んだ。
キャトルの声が聞こえ、上から、キャトルが圭一の胸に降ってきた。
「キャトル!!危ないよ!」
圭一が笑いながらキャトルを抱きしめた。
「…僕の…子だったんだって?」
キャトルがうなずいた…わけはなく「にゃあ」と鳴いた。
「さ、家へ帰ろう。ささみ買ってあげる。」
「にゃあ!」
キャトルが元気に鳴くので、圭一は笑いながら、非常階段を駆け降りた。
(終)