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Merciless night(2) ~第一章~ 境界の魔女

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 ベッドから降り、立ち上がってオレと雪上を仕切るカーテンを開けると、そこにはもうベッドに雪上の姿はなかった。
  
(先に出て行ったのか)

 オレは乱れたシーツを元の綺麗な状態に戻し服装を整え……。
 シーツの下からリボンを見つける。
 何かしら魔力を感じられるが……、

(おっと。こうしてはいられない)

 リボンを無理やりポケットに入れ、池井との約束の場所へ急いだ。



















 青い空の下、そいつは両手をポケットに入れオレを待っていた。

「俊一」

 オレは池井を下の名で呼ぶ。勿論、わけがあってだ。
 屋上で待つそいつは振り向き答える。

「俊一……か。話は後で訊く。で、本題は?」

 池井に近づき横に並ぶ形で話しかける。

「実は、花見に誘おうと思って」

「花見……か。それは俺を出し抜くためか?」

「ただの花見だよ」

「本当か?俺を罠にはめて虐めようとか言う話じゃ……」

「そんなことするかよ。学園のアイドルにそんなことをしたら、オレに明日はないよ。それに、花見の主役は公林だからな」

「そうか。お前が気を使うとは、な」

「酷いな。結構、世話になっているから本心からのお祝いさ」

「公林は元気か?」

「見た感じは元気だ。だが本当に元気かはわからない」

「あいつ努力家だからな……。頑張り過ぎなければいいが……」

「その点おまえは、気を抜いてテストで凡ミスをする」

「そうだな。でも、アイドルは大変だ。アイドルと呼ばれる限り行動は制限される。それでも、みんなが求めているアイドルを俺は目指さなくてはならない」

「そんなプレッシャーの中、アイドルを何事も無くやってのけているお前の精神力はすごいな」

「お褒めの言葉か……。その裏では俺を馬鹿にして……」

「考えすぎだ。けどアイドルの宿命だな。存在感が無ければ、アイドルは成立しないからな」

「存在感か……確かに」

 そう言った後、池井は神妙な面持ちで俺に話しかける。

「一つ気になったことだが、昨日の件が関わっているかは知らんが……、坂宮の存在が薄れてきている」

「……何!?」

 その時、大勢の池井ファンが屋上へ押し寄せる。

「重要な会話をしようと……」

 池井は自分のファンが来たことに悪態を吐くがファンの声に呑み込まれる。
 洪水のように流れ寄せてきたそれらは、池井を連れ去り嵐のように去っていった。
 嵐が去った後、雪上と零が姿を現す。

「池井君と話をしていたの?」

 雪上はいつも通りランチョンマットを敷きながら、尋ねる。

「ああ。花見のことでな」

「池井先輩も来られるのですか?」

 零は敷かれたランチョンマットの上に座り、弁当箱を広げながら喋りかける。

「その予定だが……、日時を言い忘れた」

「まあ、人気者だからね。で、池井君は来られるの?」

「何とかなるだろ」

「それで大丈夫なんですか?成人先輩」

「大丈夫だ。池井だからな」

「どういう理由なの……それ」

 昼食を食べる準備は終わり、食事にありつく。
 今日の弁当の中身は、ハンバーグ、ウサギウインナー、プチトマト、ブロッコリー、ポテトサラダ、唐揚げ、佃煮、鮭の塩焼きと炊き込みご飯。
 なんと豪勢な弁当なんだ。
 全てのおかずに手を出し自分の量だけ食べる。ちなみに自分の量とは目分量である。
 だが、結果的にその残った分が、他二人の適量となっているため安心できる。もしかすると、二人が気を遣ってくれているのかもしれないが……。

「これは……。零、腕を上げたな」

 お世辞ではなく本当においしかった。

「本当ですか先輩」

「あぁ~」

「零ちゃんやったね~」

「はい」

 雪上と零はお互い座ったまま向き合い、笑顔でハイタッチを繰り返す。
 仄々としたいい風景だな。考えたことはないが、他の人は昼休憩どうやって過ごしているのだろうか?
 池井は女子とイチャイチャ、いや質問攻めに遭い昼飯を食べる余裕がないとか。
 公林は図書室か、アルバイト先だろうし……。
 坂宮は…………。
 
“坂宮の存在が薄れている”

 恐らく原因は昨日のことだろう。
 
 オレの記憶は…………













 昨日のことだ。
 坂宮の魂が無事に本人の躰へ戻った後、オレは坂宮を背負い自宅まで送ろうとした。その時、オレは今回の件についてファミーユから4つ今後に関わることを聞かされた。


 1つ、リティはヴァルハラを現界させようとしていること。

 2つ、そのため魂が必要なこと。

 3つ、リティは坂宮を必要としていること。

 4つ、坂宮は魔術師であること。


 以上のことを聞かされ、オレはファミーユに別れを告げ売却地を去った。

 帰り道、オレは重大なことに気づく。
 坂宮の家をオレは知らないこと。
 そのことに気づき、坂宮を背負うため支えていた両手を離し落とす。

「む……う……」

「起きたか?」

 お尻を押さえながら坂宮は立ち上がりオレを睨みつけ、

「起きたか?っじゃない!すごく痛かった」

 と、一喝。

「それはすまない。それよりお前の家はどこだ?」

「ふんっ!」

 家はどこかと尋ねるも無視される。

「家を教えてくれないと、お前を送れない」

「私を……送る……?」

「そうだ」

 オレは不思議に思う坂宮の顔を見て理解する。

(こいつ、黒騎士に襲われた時から気絶してたな~。)

「もしかして、私……騎士みたいのに襲われて……」

「すまん。先に説明しとくべきだったな」

「ナッリー……助けてくれたの?」

「いや、助けたのはオレじゃなくて違う人」

「でも……送ろうとしてくれたんだよね!」

 可愛げな顔で同意を求める。否定を絶対にして欲しくない、そういう声でもあり、顔でもあった。

「……ああ」

 そんな顔をされれば、同意せざるを得ない。

「私の家の場所……知りたい?」

 いきなり話を戻される。
 今度はどちらの反応でもいいという顔をしていた。
 坂宮の家。知りたい気持ちもあるが夜も遅いことだから。オレは……、
 坂宮がそっと右手を触る。
 オレは“家に帰る”とするか。
 そう思った途端、視界が真っ暗になった。
















 ……記憶はそこで途絶えている。
 目を覚まし気がつくとそこは見慣れた自分の部屋だった。
 ファミーユは言っていた。
 坂宮は魔術師……だと。
 オレも朝、坂宮から魔力を感じた。魔術師ではないと否定はできない。
 彼女は分かっていたのだろうか……、オレが魔術師であることに。
 保健室で眠るまでオレは魔術師としての記憶をほとんど忘れていた。だから、坂宮が魔術師であることも、今日の朝分かった。
 これまでオレが魔術師だと知っていてなお、友達として付き合ってくれたのか……?
 疑問に思うことならいくつでもある。
 …………あり過ぎる。 

「成人?」

「成人先輩?」

 二人が、どうかした?という顔で問いかける。

「…………ああ、ごめん」

「やっぱり……まだ保健室にいたほうがいいんじゃないの」

「いや、もう大丈夫だ」