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Merciless night(2) ~第一章~ 境界の魔女

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「大丈夫、て顔じゃないよ」

「いや……ホントに大じょ……」

 零は心配そうな顔をする。

「成人先輩、保健室に行っていたのですか?」

「ええ」

「……っあ、ああ」

 雪上がなぜかオレより先に答える。そんなことをしたら、いらない事態に見舞われる。
 例えば……、

「静先輩、保健室にいったのですか」

 少し語尾の辺りが強く感じる。

「私と成人は保健室で一緒にいたよ」

「じゃ……その……もしかして、静先輩は成人先輩と……」

 こ、これは不味い。

「そ、そんなことはして」

「教えて欲しい?」

 不幸にも雪上の声にオレの訴えは掻き消される。

「い……いいです。それならそれで……私にも考えがあります」

 ま、待て。これは変な展開だ。この場を何とかできるのはオレだよな、というよりオレが原因か。

「と、とりあえず飯にしないか」
 






















 
 放課後、自宅への帰り道を歩きながら、昼の出来事を思い返す。
 何とか場は凌げた。空気は居辛いという言葉そのものだったが。どうにか関係を保 つことはできたし、縁を切られなくて良かった。
 いらない心配事はつくりたくない。
 雪上のことも心配だが、今は坂宮が優先だ。
 なぜ、リティに狙われているかがわからない。
 魔術師である以外になにか能力があるのか。





 ふと、足が止まる。




 周りの景色を見渡すと、そこはファミーユと初めて会った公園だった。
 公園は帰路にはなく別の道だが、ふらっと来てしまっていたらしい。
 今思えば会ってから2日ほど経ったばかりだ。なんとなく長く感じる。事があり過ぎたせいか。
 止めた足を進めようとする。

「止まりなさい侵入者!」

 聞き覚えのある声だ。こうなることは予測済みだ。
 黒いマントを身に纏った十人がオレの周りを取り囲む。魔術師か。

「よく侵入する気になったわね、成人」

 ファミーユは取り囲む正面の魔術師二人の間を通り前へ出る。

「侵入者……か」

「その通りね。約4ヶ月前からかしら」

「そうだな。で、オレを拘束すると」

「ええ。侵入者なのだから」

「そうだな。殺されないだけましか。魔術団は亡命してきた者を表側で助けたように見せかけ、その裏では亡命した者を禁錮へ閉じ込める。そして、自分達のために多くの人の命を奪い魔術界の半分以上を占める勢力の威厳を保ってきたのだから」

 ファミーユは眉一つ動かさず答える。

「私達テンプル魔術団はあなたの言ったとおりの集団よ。一切の妥協は赦さない。抗う者には制裁を。秩序無き世界に秩序を。それがテンプル魔術団」

「じゃあその魔術団を統制、管理、指揮する最高位である賽の目の一人がなぜオレを野放しにしたんだ?」

「簡単なことよ。魔術師としての力も無く、人間と呼べるかどうかの感情しか持たないからよ」

 ファミーユは一点だけを見つめていた。真っ直ぐなその視線に圧倒されるほどだ。冷たさも感じる。

「魔術師としての力がない……か」

 そっと右手を拳にして前に突き出す。

「なら、試してみるか?」

「いいわ、試してみたら?この魔術師十人にあなた一人で勝てるのならば」

 周りを囲む魔術師が一斉に身を構える。

「いくぞ」

 片足で地面を踏む。
 直後、オレの体から黒い煙が上がる。オレは腹を抱え、よろよろと立ち上がる。
 ファミーユは冷たい顔から一瞬、驚きにも似た顔をするも直に表情を元の氷に戻す。
 どうやらオレの行動に危険だと思った魔術師の一人が攻撃をしたらしい。賢明な判断だったかといえば賢明なのだろう。オレが何か魔術で攻撃をしていたのならば。
 結果オレは何もしていない。
 ただ、かかとが靴からはみ出て脱げそうになったから足踏みをしただけ。

「なぜ魔術を使わなかったの」 

 それにオレが魔術を使うことは、

「魔術は使わないしできない。一つの約束を守るため」

「……約束」

「ああ」

 ファミーユはオレの話を無視するように振り返り、

「今回は真隼 成人の拘束を中断。魔術師は本部に戻るように。以上」

 魔術師達に命令を告げる。そして、

「真隼 成人に三日間の猶予を与える」

 とのこと。
 オレを取り囲んでいた魔術師達は立ち退く。ファミーユは魔術師達を従え退こうとした時、ちらっとこちらを見てウィンクをする。
 どういった意味でのウィンクかは分からないが、再び止めていた足を自宅に向け歩みを進める。
 ガッ。
 足に何かが当たった感覚が走る。
 また、足を止め足元を見る。

(カード?)

 招待状とも取れるカードを手に取り中身を見る。
 内容は、今夜8時にこの公園で待ち合わせ、
 byファミーユ。
 と。面倒だと思いながら頭を掻き、そのままオレは帰路に着く。