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Merciless night(2) ~第一章~ 境界の魔女

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「へ~、やけに嬉しそうに見えるが」

 そう。実をいうと坂宮の胸が腕に当たっていて……、

「オレはいやらしい考えなんてしてないぞ」

「ほ~」

 疑うような目線。どうやら見透かされているようだ。

「とりあえず起き上がったらどうだ」

「ああ、そうだな」

 右手の飴を手放すと坂宮も綺麗に取れた。

「そういえば池井。今日はファンクラブが付いていないな」

「よせよ。俺はここまで隠れてきたんだぞ!」

 声は廊下を駆け巡る。そして、ファンクラブの耳へ……。

「イケく~ん」

 地響きと共に迫り来る女子の群れ。
 ここはサバンナか。

「池井。昼休屋上で」

 それだけ言い自分の席に着いた。
 もちろん池井は女子に囲まれ身動きとれず。
 まあ、仕返しのようなものだ。
 でも、疑問がある。
 何時もの教室ならオレと坂宮の関わりに対し、クスクス笑う人もいるが、今日はまるで坂宮が―――。
 少し考え過ぎか。昨日の今日で疲れているに違いない。朝のこともあるし。
 1時間目終了後、オレは保健室に行った。
 もちろんいやらしい考えは無く、ただ眠りに行くだけだ。

 
 3日間。


 実感はなくも頭にだけは残る。
 リティのヤツめ、厄介なことを。





 


 頭を両手で抱えながら保健室に入る。
 ドアはあけっぱのようだ。

「患者の健康に悪いぞ」

 オレは親切なことにドアを閉めてやる。
 頭を抱えたまま保健室内を見渡す。
 どうやら保健室によく出てくる、若しくは学園系エロゲによく出てくる保健室の先生はいないようだ。

(出張なのか?)

 誰もいないようなので勝手に部屋を使わせてもらうことにした。
 白いシーツが敷かれているベッドに横たわる。
 いつも通りのフワフワ感に眠気が来る。
 やはり、ずいぶんと疲れているようだった。
 目を閉じた後、すぐ眠りに入った。










 魔術による記憶修復完了。

 侵入後の記憶と連結。

 人格補正……失敗。

 再補修……、

 失敗したため、人格補正を中断。

 これまでの刻(とき)の人格と統合。

 Cross of axis(軸変換終了)











(記憶が……戻った?けど……何も変わらない。いや、オレにはやるべきことがある。だから……)








「ねぇ、ねぇ成人」

(何だ。オレは熟睡中だ)

「成人ってば~」

(オレは今眠い)

「起きてよ~」

(だから、オレは眠いと……)

「キスしちゃおっかな~」

(オレは……)

 キス……だ……と。

「待て!キスだけは!」


 一気に眠気は覚めベッドから飛び起きる。
 目の前にはオレの唇と触れるまで数センチと近づく雪上の顔だった。
 雪上はオレが眠っていたベッドの横に立ち、上半身をこちらに傾ける形でキスをしようとしていた。
 瞼を閉じキスをしようと清ました顔が大人の女性を思わせオレはドキッとする。
 その大人っぽさはオレにキスしてもいいんじゃないかと後押しをする。
 成り行きなら、
 そっと彼女の唇に触れる。

「あっ……て、何よ!」

 雪上は瞼を開け見た現実に落胆する。
 それもそのはず。
 雪上の唇に触れたのはオレの一指し指なのだから。

 雪上の表情は清ましていた顔から一変。ふくれっ面になり、

「私、期待してたのに!」

 オレが寝ているベッドの上に身を乗り出し迫ろうとする。
 危機感を抱き、オレは慌てて逃げようとしベッドから転げ落ちる。
 しわ一つ無く綺麗に敷かれたシーツは見るも無残に、ベッドからはみ出てだらしない状態となる。

「痛っつ」

 どうやら腰を強打した。
 腰を片手で支えるように持ち立ち上がる。

「ゴメン、成人」

 ベッドの横に立ち深々と礼をする。
 突然の謝罪に困る。

「ど、どうした?」

「だって、いつも私困らせるようなこと……してるから。まいっちゃうよね、成人も」

「いや、ここでまいっている理由は違うが……」

「私、こんなことしかできないから」

「そんなに自分を責めるな……。長い髪を振り乱して笑顔、だろ。らしくないぞっ」

 雪上に近づき左手を腰に当てたまま、右手で雪上の頭を優しく撫でる。

「ありがと……」

「礼なんて、それより長い髪を振り乱してだったか?」

「最初は“長い髪をなびかせて”だったけど、それって風が吹くから“なびく”んでしょ。だから、風が吹かなくても笑顔でいれるように、モットーを“振り乱して”にしたの」

「そうだったのか……」

 いや、以外に奥が深い。
 聞けて良かった……。

「それはそうと……、今何時限目だ?」

「4限目が始まるところ」

「へ?」

 双葉目学園の時間割は40分×7の時間配分で授業があって、4限まで午前中の授業。
 5限からが午後の授業。で、今4限だから……。

「昼食まだだ!」

「そう。朝の件で謝ろうと3限目に行ったら教室にいないから、もしかして……と思って此処に来たら……。成人が倒れてた」

 1限後からオレは寝っぱなし。
 まさに、眠り姫ほどでもないか。

「オレは倒れてたんじゃなくて、此処で眠っていたが正しい」

 一応つっこんでおく。

「ところで、なんで3限目にオレがいるであろう教室に来たんだ?」

 本当なら放課後とか、昼休憩に会うから3限に来る理由はない。

「……同じになっちゃうから」

「……へ?」

「い、いや。何でもない。こういうことは長引かせたくなかったから」

「……わかった」

 納得できないことこの上ないが、雪上の表情を見れば納得せざるを得ない。
 それほど彼女の面持ちには陰気があり、これ以上突っ込まないでくれとオレに訴えかけていたから。

「で……オレは昼休まで残り1限しか残ってないから此処で休むが、雪上は授業に出なくていいのか?」

「私も休む」

「あぁ、一つ付け加えると此処でサボる……だ。休むじゃない。人のことは言えないが」

「分かってるわよ」

 お互いそれぞれのベッドに横たわる。といってもカーテンを間に挟んで隣どうしだが。

「なぁ雪上」

「何?」

 カーテンを挟み会話をする。

「せっかく時間が取れたから、一つ聞きたいことがあるんだけど」

「聞きたいことって?」

「朝の話だけどさ、聞かれたくないならいいんだ。もし好ければ朝のこと話してくれないかな~と」

 少しの間、沈黙する時間が流れる。

「話……せない……かな。何で坂宮さんって言ったかでしょ」

「ああ」

「私もまだ確信してないことだらけでね。別に、成人だから喋らないじゃなくて、今は話せないだけ。時間が経てば話せると思う」

 どうやら話し難いらしい。
 気に病まなければいいが。

「無理するなよ……。言いたくなったら、何時でも言ってくれればいいから」

「ありがと……」

「ねぇ、成人」

「………………」

「成人?」

「Zzzzzzzzz」

「もうっ。でも……成人らしいね」













 4限終了のチャイムと共に起床する。