くつとおんなのこ
一ヶ月が経った。
ボクは今、黒髪で眼鏡の女の子の家の下駄箱にいた。隣にはボクを買った時履いていた薄汚れた白のスニーカー。明らかにボクだけが場違いだった。女の子はたまにボクをじっと見つめることはあっても、ボクの出番が来たことは未だに無い。いつもセーラー服に、隣のスニーカーを履いて出かける。
この子はどうしてボクを買ったんだろう、と、最近考えることが多くなった。別に履かれたくてたまらないわけではなかったが、こうも出番が無いと悲しい。一応ボクは靴で、靴は履かれるために存在しているのだ。履かれないというのは、自分の存在を否定されるのと同じなのである。見つめられるだけなら、靴じゃなくても出来る。
不意に、たんたんたん、と足音がした。案の定、女の子が階段を降りてくる音だった。多分二階には女の子の部屋があるのだろう。
女の子はこちらに近付いてきて、またボクを見つめた。その女の子に、ボクは何となく違和感を感じた。
……あ! ボクは気付いた。今日の女の子は眼鏡をかけていない! コンタクトにでもしたのだろうか? それに……! ボクは思わず女の子に見惚れてしまった。女の子はいつものセーラー服では無かった。ふわっとした白の膝上スカートを履いている。上は淡いピンクのTシャツに、デニムのジャケット。あのボクのいた靴屋に来ていたような女の子たちよりもずっと地味だったけれど、ボクにはこの子が、今まで見たどの女の子よりも輝いて見えた。
女の子は暫くボクを見つめた後、ボクをレジに持っていった時と同じ顔で強く頷いた。女の子はボクを手に取り、ボクに足を入れる。運命のようにぴったりだ、とボクは思った。
女の子は力強く玄関の扉を開いた。