くつとおんなのこ
女の子が向かったのは、10分ほど歩いたところにある公園だった。公園に着くと、ほっとした顔をしながらベンチに座る。けれども何処かそわそわしていた。何度も腕時計を見る。
ここまで来ると、靴であるボクにも女の子が何をしようとしているのかは察しがついていた。
15分後、遂に女の子が立ち上がる。
「ごめん、ちょっと遅くなった」
「うっ、ううん! こちらこそごめんね、突然呼び出してしまって」
上を向くと、女の子の目の前には高校生くらいの男子がいた。女の子は顔を赤らめている。
ボクは女の子の足が震えているのを直に感じた。
「あのっ、」
女の子の足の震えが大きくなる。
「あのっ、ずっと、好きでした……! つっ、付き合って下さりますか!」
……たどたどしい告白。女の子はとても純粋で、ボクは思わず吹き出してしまいそうになった。
それは目の前にいた男子も同じだったようだ。男子は少しきょとんとした後、クスッと笑った。
「いいよ。……僕も君が好きだ」
それまで緊張して足を震わせていた女の子は、ぱあっと明るい顔になった。
そんな女の子を見て、目の前の男子も笑った。
「ていうかさ、」
男子が口を動かす。
「その靴、カワイイね」
女の子が嬉しそうに「有難う」と言う。ボクも嬉しかった。
ボクは今、自分がこの可愛らしいピンクのパンプスになって良かったと心から思った。カッコイイ黒のスニーカーになんて、ならなくて良かった、と。
ボクは男である以前に、靴なのだ。