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ハイエースの旅人

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「おっと、兄さん、これ使いなよ」
 そういうと彼は立ち上がり、地面に直に座ってあぐらをかいていた僕に、自分が使っていたディレクターズチェアを渡してよこした。
 「いや、地面でいいですよ」と断ると「もうひとつあるからいいよ」と、ハイエースの中から同じタイプのディレクターズチェアを引っ張り出した。同時に大きな青いクーラーボックスも車内から引っ張り出す。さすが、バイクと違って積載量が半端ではない。
「ほらよ」
 クーラーボックスから500ミリリットルの缶ビールを取り出すと、僕に投げて渡した。缶チューハイを買ってきていたのだが、とりあえずは用意してくれたビールをご馳走になることにしする。
「よっしゃ、まずは乾杯や、乾杯!」
 彼は「よっこらしょ」と深く椅子に腰掛けると、顔をしわくちゃにして満面の笑みを浮かべ、缶を固く掲げた。その笑顔で自分の中での警戒心は完全に消えてしまっていた。僕も同じようにして缶を持ち上げる。缶から流れ落ちる汗がランタンに照らされて奇麗だ。
「乾杯!」
「カンパーイ!」
 まずは一気に半分くらいの量を飲み干した。風呂上りだということもあってか格別に美味しい。星空の下、虫の鳴き声をとラジオをBGMに天然のビアガーデンだ。夜風の心地良さがさらにビールを美味しく感じさせる。
「兄さんはどこから来たんや?」
 空いた左手で裂きイカをほおばりながら彼は言った。
「浜松からです。静岡の。今朝、家を出てずっと下道で来たんですよ」
「ほぉー、そいつはなかなかの距離やなぁ」
「はい、九時間もかかってしまいました」
 高速道路を使えば半分の時間もかからなかっただろう。現在、建設中の東海北陸道路が開通すればさらに時間の短縮も可能だ。だが、今夏のツーリングで高速道路は嫌になるほど走ったので、今回は下道を選択した。予想外に高山を抜けるまでは交通量が多く、残暑の熱波にもやられ、休憩を繰り返しているうちに九時間。けっこうな時間を消費してしまったが、充分に走りは楽しめた。

作品名:ハイエースの旅人 作家名:山下泰文